人権局は「県外条項」が無効であることを早くから認識していた

鳥取県人権局が早くから人権救済条例を県外の事案に適用することは不可能であることを認識していたことが分かりました。人権救済条例の県外適用に関する条文は以下の通りです。

第17条 何人も、本人が人権侵害の被害を受け、又は受けるおそれがあるときは、委員会に対し救済又は予防の申立てをすることができる。
…略…
3 第1項の申立て又は前項の通報(以下「申立て又は通報」という。)は、当該申立て又は通報に係る事案が次のいずれかに該当する場合は、行うことができない。
…略…
(5) 申立て又は通報の原因となる事実が本県以外で起こったものであること(人権侵害の被害を受け、又は受けるおそれのある者が県民である場合を除く。)。

この県外適用の規定が地方自治法上無効であることは、条例の成立後の批判を受けて片山県知事が認めています。しかし、県人権局と片山知事は平成15年から平成16年にかけて鳥取県人権尊重の社会づくり協議会の一部委員による「人権救済制度検討委員会」が行われていた段階で、既にこのことを認識していました。
県が公開した平成16年6月22日の第6回人権救済制度検討委員会議事録から、県外への適用は不可能であることを主張する人権局と、あくまで県外の事案への適用を主張する協議会委員とのやりとりを読み取ることができます。
なお、この検討会の委員は以下の通りです(肩書きは平成17年の「鳥取県人権尊重の社会づくり協議会名簿」によるものです)。

椋田昇一 (財)鳥取市人権情報センター
安田寿子 特定非営利活動法人女性と子どもの民間支援みもざの会
相見寿子 レディースあすか鳥取
光岡芳晶 特定非営利活動法人「すてっぷ」
松田章義 (財)とっとり政策総合研究センター
福間裕隆 鳥取県断酒連合会
國歳眞臣 鳥取大学名誉教授
藤村梨沙 (性同一性障害者の問題に関する取組)

県からは、当時の中島人権局長、堀部人権推進課長、西村人権推進課企画調整係長が参加していました。
会議では以前の検討会をもとに県側がまとめた資料が配布されますが、松田委員から異議が出されます。

松田委員 読ませていただいて、今までの委員会で協議していないことやこういう議論だったかなと思うところがある。たとえば、県外で発生した人権侵害で、県民が被害者・加害者の場合は対象外などいう(ママ)ようなことは話し合っていないと思う。事務局のほうでまとめられたと思うが、冷たいのではないか。さきほど、発生県での対応が原則であると説明されたが、県民が県外で差別被害を被った場合に、県外の役所に申し出ることはないと思う。県内に帰ってきてから、県や人権委員会などに申し出るのが普通ではないか。そのときに、県外の人権侵害は対象としないので、そこの役所に行ってくれというのは実際どうなのか。やっぱり、県民が県外で被害を受けた場合、人権委員会に申し出た場合は、それを受けて、県外の役所にこういう申し出があったが調べてくれないかというような、県外の役所との調整とか斡旋とかいうことを進めていかないと、被害者の救済などできないのではないか。特に、調査が困難だから適用外などというのは冷たい。こんな文言が出てきたらふくろ叩きにあるのでは。ほかにもたくさんある。こういうことを我々がいままでの議論の中で話したかなという疑問を持ちながら、もし我々が話しをしていたとするならば、えらい不見識なことをしたと思う。お尋ねと意見表明ということで、以上。

このことについて県側の西村係長は、県外の事案まで調査するのは手間も時間がかかるので対象外としたと説明しますが、中島局長がそれを遮り、改めて法律上の問題であることを説明します。

中島局長 今の説明は違う。県の条例というものは、基本的に鳥取県の中でしか効力が及ばない。だから、県外で発生したものは、基本的にこの条例の効力が及ばない。ただ、言われたように鳥取県が他県に対し、県民の人権侵害の相談を受けて必要な対応をとるように言うなどの事実上の行為は行うが、条例にしても、法律にしても、法律なら国の区域内、県の条例なら県の区域内、市町村の条例なら市町村の区域内にしか及ばない。だから限界がある。そういう意味で県外のものは対象としないとしたもの。

しかし、これがきっかけで、県側は他の委員からも集中攻撃を浴びることになります。
(次回に続く)

男女参画認定企業の入札優遇 施行延期を要請

日本海新聞より。

鳥取県議会企画土木常任委員会は二十一日、県が二〇〇七年度から実施を予定している男女共同参画推進認定企業を対象に公共工事の入札を優遇する新制度について、「認定企業が限られ時期尚早」などの理由で、全会一致で延期を執行部に要請した。
新制度は、〇七年度から県建設工事入札参加資格者の格付けを行う際に認定企業に加点。認定企業は受注を得る機会が増えるなどのメリットがある。新制度は今年の二月県議会で承認されたが、「建設業者の新たな負担となる」として慎重に対応するよう付帯意見が付けられた。
委員会では、石村祐輔議員(清風)が「認定企業は県内の建設業者の数%に限られている。認定企業が増えてからでも遅くない」と実施延期を提案。他の委員からも「二月議会の付帯意見が無視されている」などの批判が相次ぎ、執行部に再考を求めた。
一方、県県土整備部の田所正部長は「知事と相談して方針を決めたい」と答えた。
男女共同参画推進企業の認定制度は〇四年度に創設。女性管理職の登用や採用拡大の推進、育児・介護休業制度の整備推進などを審査し、知事が認定する。現在までに建設業者は、県内約二千七百社のうち十八社が認定されている。

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性別の記載が消えたのは何のためか?

昨年の9月、鳥取県で人権に配慮した申請書類等にするための関係規則の整備に関する規則というものが出され、県の行政機関の書類から性別の記載が消えました。「突き詰めて行けば、そういった情報の記入は必要ないので、必要のない個人の情報は取らないという観点からそうなった。」と県は説明していますが、どうやらそうではないようです。
県の規則では、ある福祉施設のデイケアサービスに関する申請書からも性別の記載が削除されていました。福祉や医療の現場で性別を把握しないというのはさすがに不可解なので、この福祉施設に問い合わせてみました。担当者によれば、今年から業務内容が変わってデイケアサービスから学習講座に変わっているとのことです。そして、「去年まで行われていたデイケアサービスと、現在行われている学習講座でも、必要なので性別の記載をしている」ということでした。
早速、人権局の人権推進課に問い合わせてみました。担当者によれば、性別の記載が必要かどうかといった判断は人権推進課ではなくて各書類の所管課で行ったそうです。では、人権推進課がとりまとめてこういったことを行った過程については、意見書が出されたり、検討会が行われたといった記録は残っていないということです。ただ、いずれにしてもこれは行政レベルで行われたことです。
県の文書を調べていると、平成16年の鳥取県人権施策基本方針に手がかりとなりそうな記述がありました。

鳥取市など県内4市では、性に関する差別と偏見をなくすため、行政文書などから不要な性別記載を削除するなど市町村独自の取組が始まりました。平成15(2003)年7月には、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害者性別特例法)」が成立し、戸籍上の性別変更が可能となりましたが、変更には「現に子どもがいないこと」など適用条件の問題が指摘されており、適用除外を求める動きもでています。また、性同一性障害に関しては診療を受けられる医療機関が限られているなど、医療福祉分野で検討すべき点もあります。

これは県の書類から性別の記載が消える前のことで、県下の市の取り組みに触れたものですが、「性に関する差別と偏見をなくすため」と書かれています。なお、この記載を入れるよう県に求めたのは、男女共同参画や子供の人権に関する取組みをしている元鳥取県人権尊重の社会づくり協議会委員の松田章義氏(これが人権救済条例にもリンクしてくるので名前を覚えておいてください)であることが、平成15年度第3回鳥取県人権尊重の社会づくり協議会議事録から明らかになっています。
また、以前から上記引用部分と一致する主張を続けてきた人物がいます。現鳥取県人権尊重の社会づくり協議会委員である藤村梨沙氏です。彼女が取り組んできたことはこちらのページによくまとめられています。
「性別の記載が消えたのは何のためか?」その答えはおそらく、「彼女のため」です。なぜそうなのかいうと、そもそも鳥取県は県内に性同一性障害の患者がどれだけいるかさえ把握していないからです。

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最近の身分制度に関する歴史教育の事情

私の小中学生の頃は、身分制度と言えば「士農工商えた非人」と教えられていた時代でした。おそらく、現在の二十代半ばくらいまでは、学校でそのように教えられていたはずです。しかし、最近は江戸時代の民衆史の研究が進むにつれて、かつての教科書の内容のかなりの部分が誤っていたことが分かってきています。
手元に、昭和61年の鳥取県内の小学校高学年向けの同和教育学習資料があります。その中には、おおよそつぎのような記述があります。
・えた、非人は士農工商よりもさらに低い身分に位置づけられていた。
・被差別部落は江戸時代の権力者が自分達に都合のよい政治をするために政策的につくられた。
・農民の年貢に対する不満をそらすらめに、「上見るな、下見てくらせ」という考えで「えた・非人」の身分が作られた。
私も、こういった指導を受けましたが、実は最近ではこのことは歴史的事実としては否定されつつあります。
まず、現在の小学校の教科書では「士農工商」という記述はありません。武士という支配階級の下に一般大衆がいたというのが実態で、例えば農民の下に町民が位置づけられていたわけではないからです。私は中学の頃の同和教育で「農民が武士の次に身分が高いのは、最も数が多かった農民の不満をそらすためだ」と教えられましたが、これは全くの誤りです。なおかつ、農民と言っても農業だけでなく漁業や林業に従事する人もいたはずなので、現在では「百姓(あるいは村人)」といった言い方をされます。同じ理由で「工商」の部分も「町人」と言われます。単に農村生活者と都市生活者という違いだけで、身分に上下があったわけではない、というのが実態をよく表しているようです。
また、現在の教科書では「えた・非人」という身分は「さらに低い身分に位置づけられていた」のではなく「外に存在した」といった言い方がされます。なぜなら、もし「えた・非人」が単に最下層身分であるなら、なぜ穢多頭弾左衛門のような権力者が被差別身分の中に存在したのか説明がつかないためです。弾左衛門は関東の人物ですが、鳥取でも同様に被差別身分の中の有力者というのは存在していました。こういった人物の中には明治になっても有力者であり続け、早くから同和対策事業に貢献していた者もいます。被差別身分と言うと皮革産業や警吏、渡し守ばかりをしていたイメージがありますが、実際は地域で商売のネットワークを作って成功していたり、普段は農民や小作人と同じように暮らしている人々もいました。しかし、多くの被差別身分は明治になってからも被差別身分として隔離される一方で、被差別身分特有の独占産業が自由化されたため、近代化から取り残されるといった結果になってしまいます。
そして、「被差別部落は江戸時代に作られた」という従来の説も崩れかかってきています。一番の矛盾点として、もし江戸時代に作られた制度なら、なぜ被差別部落が当時幕府が存在していた関東ではなく、関西に多いのか説明がつかないためです。実際は、室町時代に皮革などの産業を専門に扱う身分として京都で生まれ、それが民衆の間に徐々に広がっていたものを江戸幕府が制度として追認した、というのが正確なところのようです。

鳥取市同企連の証憑書類等の不開示が決定

鳥取市同企連の証憑書類等の開示請求に対する不開示処分に対して異議申し立てがされていましたが、平成18年8月8日付けで棄却されました。
決定書と情報公開・個人情報保護審査会答申(答申第1号)をご覧になるにはこちらをクリックしてください。
答申によれば、実施機関(人権推進課)の説明の要旨はおおよそ以下の通りです。

  • 同企連は会員企業が主体的に運営しているものであり、市とは別機関である。
  • 市の職員は必要な都度協力しているもので、市役所内に存在する文書は同企連に返還するという前提で預かっているものである。
    審議会は以上の点を認めて異議申し立てを棄却しています。しかしながら、審議会で出た少数意見、付帯意見として以下のことを指摘しています。
  • (市の職員による)同企連の事務が長期間にわたり継続することにより、市の職員の職務と解すべきである。
  • 情報公開条例第31条の規定に準じて、同企連の保有する情報の開示に必要な措置を講ずるよう努めることが望ましい。
    正確な内容は答申の全文をご覧下さい。
    なお、第31条というのは出資法人に関する以下の条文です。同企連の予算の42%が市の補助金であり、さらに人的な支援も行っていることが根拠になっていると思われます。

    第31条 市が資本金、基本金その他これらに準ずるものの2分の1以上を出資している法人は、この条例の趣旨にのっとり、当該法人の保有する情報の開示に関し必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
    2 市が資本金、基本金その他これらに準ずるものの4分の1以上を出資している法人は、当該法人の業務及び財務に関する情報の提供に関し必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

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  • 下味野上バス停にまつわる出来事 (2)

    バス停の名前の決定権は基本的にバス会社にあるはずなので、バス会社に電話してみました。

    私: どういった理由で変更されたのでしょうか?
    バス会社: 地元の方からの希望で変更しました。
    私: 西下味野という名前が差別的だという指摘があったと聞いています。ただ、地元の方も隣保館の館長も名称が変更されたこと自体知らないとおっしゃっていますが。
    バス会社: 隣保館というよりは、西下味野という名前がよくないということで、地元のみなさんで話し合って決めたわけです。
    私: みなさんといっても、地元の方に聞いてみたところ、知らないというんですよ。1人知っている人はいましたが、そもそも誰が言い出したかわからないし、バス会社の方からそんな話が出てきたそうですよ。
    バス会社:え?おかしいなぁ…。被差別の集落のからみでですね、西下味野はそうではないけれども、そこに近い方からおかしいんじゃないかというご意見を頂いたといういきさつです。ただ、隣保館の館長さんもご存知ないというのはちょっと変ですね。
    私: 最初のクレーム自体がイタズラの可能性はないですか?
    バス会社: バス停の名前はイタズラで変えられるようなものではなくて、地元の方に諮って変えたはずですけどね。

    いきさつをさらに詳しく聞いたところ、最終的には公民館の地区の総会でバス会社に一任されたということです。そもそもの発端は「隣保館の方」から話が出てきたということなのですが、それでは隣保館側の言うことと食い違ってきます。再度隣保館に確認したところ「前任の館長にも聞いたけど分からない」という答えが返ってきて、さらには「本当に隣保館は関係ない」と念を押される始末でした。さらにバス会社に確認したところ、どうも隣保館関係者が直接関わっているというよりは、当時の地区の役員から話あったのがそもそもの発端のようです。ちなみに、バス会社に「もしかしてその人は解放同盟?」と単刀直入に聞いてみましたが「組織としては関わってないです」という答えでした。
    問題の公民館での総会の参加者によれば、「なんだそりゃ」といった状態で「面倒だからバス会社に一任」といった雰囲気だったということです。総会は「被差別でない側」の地区で持たれたそうですが、部落解放運動に関する雑誌などにも度々記事を書いている「被差別の集落」関係者にもコンタクトを取ってみました。

    私: 西下味野バス停の名前が変えられたことはご存知ですか?
    地元関係者: いやぁ、あまりバス停なんか見て通らんけぇね。普段バス使ってる人間ならあれなんでしょうけど。
    私: なんか西下味野という名前に変わったみたいで。
    地元関係者: ええ?だったらうちのバス停はどうなったですか(笑)。
    私: それが変わってないみたいでね(笑)。

    …と、終始こんな感じで拍子抜けしてしまいました。
    他の地元関係者によれば最近は通称名が使われなくなってきており、自治会などの名称も「被差別の集落」と「被差別でない側」で同じ名前になってきているのだとか。しかし、そもそも通称名は比較的最近、地元小学校の影響で使われていたものなので、結局はまた昔に戻るということになります。
    鳥取は車社会であり、特に近年ではバスの利用者の中心であった高齢者も免許保有者が多くなっているので、ますますバス離れが進行しています。それゆえ、地元住民が無関心になるのも無理はありません。
    この一件、あまり地元で対立を生むようなことはしたくないので、バス会社に「クレームをつけた人が誰なのか、あまり詮索したくはない。ただ、もし本人に会う機会があれば、私に連絡するよう伝えて欲しい」とだけ言い、深追いはやめることにしました。それから、私の元には何も連絡は来ていません…

    下味野上停にまつわる出来事 (1)

    今年の4月、鳥取に帰郷した際に妙な話を耳にしました。それは、「近くのバス停に行ってみろ、面白いことになっているぞ」ということです。そのいきさつを聞いたところ、そのバス停の名前について、同和地区住民の中に、部落差別に絡んで差別的だとクレームをつけた人がいて、それを受けてバス会社が名前を変えてしまったということです。
    すでにご承知の通り、鳥取県には同和地区あるいは被差別部落と呼ばれる地域がありますが、多くの同和地区は単に1つの地名をもって現されるわけではありません。地名が同一でも、その中に同和地区であるところと、そうでないところがあります。そして、地元での通称名として下国安と上国安だとか、倭文東と倭文西のように呼び分けられることがしばしばあります。件のバス停も、そういった通称名がつけられていたものでした。ちなみに、その通称名は近くの学校で登校班の名前として使われていた呼称が定着したことに由来しています。
    もちろん、そういう話を聞いてしまった以上、調べないわけにはいきません。やはり、部落問題と言えば、同和行政や啓発を担う隣保館だろうということで、地元の隣保館長に事前に質問内容をメールした上で、電話取材を敢行しました。

    館長: 西下味野のバス停の名称変更については、隣保館は一切関与していないというか、全然聞かされてもいなくて、関係もしていなくて、そういう会にも出ていなくて、全く状態は分からないですね。
    私: 隣保館の知らないところで行われていたということですか?
    館長: そうですそうです。どこでどうというのは世間では聞いていますけれども、隣保館としては全然入ってないんです。
    私: 公式には関わっていないということですか?
    館長: いえいえ、公式にも私的にも隣保館の職員は関わってないです。全然。想像ですけどね、地域でやられていることだと思います。

    館長さんのお話によれば、隣保館はその地域にあると言っても、基本的に市の管轄であり、職員もあちこちの隣保館から異動してくるので、地域の問題と言うのを何から何まで把握できるものではないのだそうです。また、「バス停の名前が変更されたことについては、そもそもバスを使わないものだからそのこと自体知らなかった。それにしても下味野上に変わったというのはおかしいですね。」とおっしゃってました。
    続いて、地元住民に知り合いがいたので聞いてみました。

    私: 西下味野のバス停が下味野上に変わったようだけど知っているか?
    住民: 知らんかった。だいたいバスっちゃあな使わんしなぁ…
    私: なんか差別的だとかいちゃもんつけた人がいるらしいけど、心当たりあるか?
    住民: ああ、そういうおかしなことを言うのは○○の親父だ。あのもんは夫婦ともども村中から嫌われとってなぁ…

    …と、思いかけず近所の人の悪口を聞かされる展開になってしまいました。
    (次回に続く)

    同和対策事業に対する率直な感想

    以下は1991年、県内のとある小学校のPTAで行われたアンケートの結果の一部です。同和対策事業に対する意見(自由記入欄)が原文のママ書かれています。

    30代母
    (1) 平等にしてほしいと言いながら特別にするから差別になると思う。差別をなくそうと思うならそういうことはやめてほしい。
    (2) 改善事業が行われることで、それも差別ではないかという声を聞いたことがありました。
    (3) 被差別部落以外(例.過疎地域)にも同様、行政面等改善すべき点がある。
    (4) 融資等
    (5) 改善事業の目的を正しく理解する時も必要だと思います。
    (6) その地域を改善していくことはとてもいいことだが、形のない改善も大切なのではないでしょうか。
    (7) 良くなっている反面、その場所が目立つようになって公共的建物ができても行きにくい。
    (8) 以前の反省のつもりで良くしているのであろうが、かえってそれが特別であるように思われる。また、部落内の人は、それに対して当たり前という態度で、逆に自分たちは、特別なのだとひけらかしているように思う。
    (9) 改善事業が行われるのは、別に対象がどこであろうと良いことだと思う。
    40代母
    (1) 物資の問題ではなく、意識的に心のそこにある部落差別の言葉、思考など全て拭い去ることが大切に思います。
    (2) 同和対策事業でなく、改善すべき所は、同和、同和外関係なく、同じように行政の目を向けてよくしていくべきだと思います。
    30代父
    (1) 特別な事業をすることが、差別である。
    (2) 大きい、立派な家のある部落が、差別部落です。低利の金があったら差別なく。
    40代父
    (1) 同和対策事業の仕事をした。
    (2) 特別な事業をすることによって差別を助長している。
    (3) 部落差別、部落差別と騒ぎすぎる。
    (4) 現在、改善事業がどの様な条件で行われているかわからないが、考え方によれば、その事業こそ差別である。
    (5) 低金利での融資等いろいろ聞いています。仕事をあまりしなくても大変立派な家に住んでいる人がいます。C地区(註:この部分だけ修正して書き直してありました)に行ってみてください。
    (6) 被差別部落であることを口実にして、何かをしてもらうことはいかがかと思う。それを口実にしてまた、利用されることが多いと思う。自立が大切ではないか。
    (7) その部落だけが、差別を受けているという考えで、そんな事業が行われる。という考え方が、一般的に差別であり、部落というだけの事業は、疑問を感ずる。

    最後にアンケート集計者による「アンケートからみる成果と課題」には「妬み差別が依然として根深く残っている。」と書かれています。理解を求める、学習が必要ということだけで、事業自体のあり方を問うような記述はありませんでした。

    同和地区実態把握等調査とは(4)

    同和地区実態把握等調査には「被差別の状況」という核心迫る項目があります。これは世帯の住人全てに、同和地区住民であることを理由に差別を受けたことがあるかどうか尋ねるものです。被差別体験の基準ですが、手引書によれば「何をもって被差別体験とするかは面接対象者の考えによります」ということです。

    全体では28.9%が差別を受けたことがあると回答しています。年代別では年齢が上がるほど増え、45~49歳では40%にのぼりますが、それより上の年代では割合はほとんど変わりません。

    さて、部落差別で最後に残る最も深刻な問題とされる結婚差別ですが、どれだけの方が体験したと答えているのでしょうか。以下の表は被差別体験の有無と被差別体験の内容別割合から求めたものです。

    結婚差別を体験した人の割合
    15~19歳 0.08%
    20~24歳 2.34%
    25~29歳 7.66%
    30~34歳 10.18%
    35~39歳 14.54%
    40~44歳 14.07%
    45~49歳 13.7%
    50~54歳 12.7%
    55~59歳 8.78%
    60~64歳 6.82%
    65~69歳 3.82%
    70~74歳 3.88%
    75~79歳 3.89%
    80~85歳 1.80%
    85~ 1.46%

    若い世代の割合が少ないのは、単に既婚者あるいは婚約の経験がある人の割合が少ないためと考えられますが、35歳代をピークに徐々に減少し、80歳以上では極端に少なくなっています。これは私の想像ですが、この世代では部落内や部落同士の見合い結婚が当たり前だったので、そもそも結婚でトラブルになること自体があまり起こりえなかったためと考えられます。

    なお、この調査は「同和関係住民」を対象としているため、転出者については不明です。そもそも、転出者から「元同和関係住民」を探し出して調査することは不可能でしょう。

    最後に人口流出の問題を採り上げておきます。県内の同和関係人口は平成12年の2万1818人から平成17年では2万237人に減っており、減少率は7.2%です。これは同時期の鳥取県全体の人口減少率1.0%に比べるとかなりの減少率です。同和地区は郊外や郡部に多いと言われます。しかし、鳥取県の郡部に限った人口減少率でさえ4.2%なので、さらにそれを上回っていることになります。「同和関係人口」=「同和地区人口」ではないのでいちがいには言えないのですが、同和地区の過疎化が進んでいることは間違いないようです。

    さて、こういった実態調査は誰がどのように作っているのでしょうか?県内の教育関係者、行政関係者によれば鳥大の國歳眞臣名誉教授が旗振り役だと口をそろえて言います。つい先日、7月13日に鳥取市産業体育館で行われた第31回部落解放・人権西日本夏期講座では、國歳教授により同和地区の実態について全国的な調査の実施が必要という趣旨の講演が行われています。県の人権局によれば、同和地区実態把握等調査については特に彼がリーダーシップをとっているわけではないが、学識経験者として検討会に参加し、部落解放研究所などが加わって調査の内容を検討しているということでした。

    同和地区実態把握等調査とは(3)

    さて、この同和地区実態把握等調査の回収率ですが、88.4%となっています。これは一見に高い回収率に見えますが、国勢調査の未回収率が4.1%(全国)であるのと比べると、11.6%が未回収というのは低い回収率です。なお、最低限世帯員について「世帯主との続き柄」「年齢」「性別」が分かれば調査完了とされています。
    対象世帯が調査に協力しないのはどのような場合でしょうか?「調査の手引き」には調査に非協力的な世帯への対処方法の筆頭に次のことが挙げられています。

    (1) 対象世帯が、調査の対象となった経緯について疑問を抱いた場合
    今回の調査は、市町が本年6月から実施した地区概況調査実施時に作成した世帯主名簿に記載された世帯を対象とするものですが、対象世帯(世帯員)の中にはどのような経緯で自分の世帯が対象となったのか疑問をいだく方がいると思います。
    このような場合は、「市町が○○○○○の方法で世帯主名簿を作成しましたが、その名簿に基づき今回の調査の対象とさせていただきました。」などと説明して協力を得ます。
    また、世帯主の配偶者などが、この地区が同和地区とは知らずに生活しているなどの家庭内の事情をあらかじめ承知した場合には、世帯主のみに面接調査を行うようにするなど配慮が必要です。

    このことから、知らないうちに自分の家が「同和関係世帯」として世帯主名簿に載せられているというケースがあることが伺えます。「○○○○○」の部分は、地区概況調査で地区の事情を知る隣保館などが名簿を作って市町村の同和対策課がとりまとめる、というのがおおよその手順です。この地区概況調査については取材続行中ですので、またの機会に採り上げます。
    さて、同和地区実態把握等調査では世帯全体(世帯票)と、さらにその世帯に住む各住民(世帯員票)に対する調査項目があるわけですが、世帯員票には住民のプライバシーに深く関わる調査項目があります。それが、配偶者が同和地区出身がそうでないのかを尋ねる項目です。これは地区外との通婚が進んでいるかどうかを調べるためのもので、この種の調査は同対法が生きていたころには国レベルでも行われていました。しかし、事実上配偶者の出自暴きをすることになるためもはや行われておらず、今でも行っている地域は非常に珍しいのではないかと思います。
    調査では配偶者が「この地区」か「他の同和地区か」か「同和地区外」での生まれかどうかを聞かれます。「他の同和地区」というのは、旧地対特措法の対象地域であれば鳥取県外も含まれます。県外から嫁いで来た人にまで身元調査をする是非について鳥取県に問い合わせてみましたが「通婚率を調査する必要があるので、やむおえない」ということでした。
    この全国的にも非常に珍しい調査結果ですが、平成17年7月1日現在、鳥取県内の同和地区では夫婦とも同和地区の生まれのカップルは60.9%、一方が同和地区の生まれのカップルは30.8%となっています。25歳未満の最も若い世代ではそれぞれ9.3%、83.9%となっており、最近では8割以上は地区内と地区外の結婚です。
    (次回につづく)

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