鳥取県情報公開審議会答申 part2

以下、鳥取県情報公開審議会答申の全文です。

答申第19-1号
平成19年5月7日
第1 審議会の結論
「部落解放鳥取県企業連合会による加点研修の実績報告書、受講者名簿」(以下「本件公文書」という。)について鳥取県知事(以下「実施機関」という。)が行った公文書部分開示決定処分については、妥当であると判断する。
第2 審査請求に至る経緯
平成18年10月25日 公文書開示請求
    11月29日 公文書部分開示決定通知
  19年 1月16日 行政不服審査法第14条の規定による異議申立
第3 実施機関の部分開示決定理由
鳥取県情報公開条例(以下「条例」という。)第9条第2項第2号(個人情報)に該当するため。
受講者の所属については、上記理由に併せて、条例第9条第2項第3号ア(法人不利益情報)に該当するため。
第4 異議申立人の主張
異議申立人の主張は、異議申立書、意見書によると概ね以下のとおりである。
部落解放鳥取県企業連合会(以下「企業連」という。)による加点研修の実績報告書の受講者の所属について開示を求める。
(1)公共工事入札資格者の格付けの点数に係る加点について、部落解放鳥取県企業連合会による加点研修により加点を受けた企業(受講者所属)名のみ公表されないのは、著しく不公正である。
(2)企業連から会員企業の受講者名簿を取得するという行為が、個人情報保護条例で禁止されている同和地区出身者の情報の収集に当たる可能性があるのではないかとの県民の声に対し、県は「部落解放鳥取県企業連合会」は同和地区の事業者で組織する任意団体で、加点研修には同事業者の役員や従業員が参加し、受講するが、そのことから直接受講者が同和地区の出身であるかどうかはわからないと回答しているが、鳥取市などの説明等と矛盾する。企業連会員企業の役員や従業員の情報を収集することは同和地区住民の情報を収集するのと同等以上の確度がある。
(3)事実上同和地区出身者を特定する情報が収集されているのであれば、鳥取県個人情報保護条例違反である。
(4)実施機関は受講者所属の非開示理由として「電話帳など他の情報と組み合わせることにより所在地等が判明し同和地区の特定につながる」としているが、他の情報と組み合わせて同和地区産特定するような行為をするかどうかは見る人のモラルの問題である。
(5)同和地区が特定されることが問題なのであれば、県立公文書館や県立図書館の郷土資料室で閲覧できる書類でも同和地区の特定は可能である。入札制度が公正に運用されていることを検証するために同和地区が推測される資料の開示を拒むことは不当である。
(6)受講者所属を開示することによる害される「当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益」について明確な説明を求める。
(7)実施機関は「同和地区の企業と言うことが公開されることにより、取引等において相手先から不利益な扱いを受ける等のおそれがないとはいえない。」としているが、それこそ根拠のない思いこみである。全国的にも同和地区の企業という理由で不利益を受けたことが問題になった事例は自分が把握する限りない。
第5 実施機関の主張
実施機関の主張は、理由説明書及び意見陳述によると、概ね以下のとおりである。
(1)受講者所属事業者を非開示とした根拠は、当該事業者を公開し、同事業者が同和地区の企業であることが公になることにより、その正当な利益が害されるおそれがあるため及び当該事業者を公開すると、電話帳等他の情報と組み合わせることによりその所在地等が判明し同和地区の特定につながるなど、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるためであり、当該非開示情報は同和地区出身者を直接特定する個人情報として非開示としたものではない。
(2)「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」は平成14年3月31日をもって失効したが、部落差別が完全になくなったとは言えない現状であり、同和地区の企業ということが公開されることにより、取引等において相手先から不利益な扱いを受ける等のおそれがないとは言えない。
(3)県民の声に対する回答の趣旨は、鳥取県個人情報保護条例で収集が制限されているのは、同和地区の出身かどうかという事実の有無(見なされるかどうかではない)に関する情報であり、出席者名簿では当該事実の有無は確認できないため、当該収集は同条例に抵触するものではない、というものである。
第6 本件異議申立て審議の経過
平成19年 1月26日 諮問書の受理
     2月 9日 実施機関から理由説明書提出
     2月26日 異議申立者から意見書提出
     3月 6日 実施機関の意見陳述・審議
     4月 5日 審議
第7 審議会の判断
(1)本件公文書について
本件公文書は、「部落解放鳥取県企業連合会による加点研修の実績報告書、受講者名簿」である。当該文書は鳥取県が建設業者指名選定に当たり、その選定基準となる採点に対する加点項目の一つである「同和問題解決への積極的な取り組み」を実施した届出(報告)として、部落解放鳥取県企業連合会から鳥取県に対して提出されたものであり、受講者の氏名、役職、合否、所属等が記録されている。
申立人は「企業連による加点研修の実績報告書の受講者の所属」の開示を求めており、実施機関は、受論者所属を非開示とした根拠を、当該所属(企業名)を公開し、同所属(企業)が同和地区の企業であることが公になることにより、その正当な利益が侵害されるおそれがあること及び当該所属(企業名)を公開すると、電話帳等他の情報と組み合わせることによりその所在地等が判明し同和地区の特定につながるなど、個人の権利利益を不当に僅害するおそれがあるためなどとしている。
このため、当該所属(企業名)の条例第9条第2項第2号(個人情報)及び第9条第2項第3号(法人不利益情報)該当性について検討する。
(2)条例第9条第2項第2号(個人情報)該当性について
所属(企業名)自体は個人識別性が低い情報と思料されるが、実施機関は電話帳等他の情報と組み合わせることによりその所在地等が判明し同和地区の特定につながるなど、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあると主張するため、当該情報が特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を侵害するおそれがある情報(以下「非識別情報」という。)に該当するかどうか検討する。
非識別情報は、個人識別性がなくても、個人の人格等と密接に関連する情報あるいは開示により財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれのある情報などと解される。更に政策的に、広く開示対象情報と個人の利益侵害との関連性を認めて、当該情報を非開示とする解釈もあるものの、本県条例の原則開示の理念を勘案すると、実施機関の主張するように当該情報(所属(企業名))と直接結びつかない不特定の同和地区関係者まで関連性を認め、個人の権利利益を侵害するおそれがあるとして、当該情報を非開示とできるかどうかは議論の分かれるところである。
しかし、所属(企業名)は法人登記簿等他の情報と組み合わせることにより少なくとも当該企業の役員、職員(以下「役員等」という。)が特定されうる情報である。また、企業連は部落解放同盟の関連組織であるが、企業連加入企業の役員等は必ずしも同和地区出身者であるとは言えないものの、ある程度そのように推定されてしまうことを勘案すると、部落差別の意識が解消されているとは言えない現状において、所属(企業名)の開示により、当該役員等が不利益を受けるおそれがあることは否定できない。
このため、所属(企業名)は当該企業の役員等にとって、非識別情報に該当すると言える。
よって、当該情報は条例第9条第2項第2号に該当する。
(3)条例第9条第2項第3号(法人不利益情報)該当性について
所属名の開示により当該所属(企業)の権利利益が侵害されるかどうかについて、実施機関は実際に権利利益が侵害される事象が生じていると主張しており、企業連からの聞き取り等により、その事象が存在することは推測できるものの、実施機関は具体的に権利利益を侵害された企業名等は特定していない。
しかし、部落差別の意識が解消されているとは言えない現状があり、また、こうした事象が潜在化する傾向があることを勘案すると、実施機関の主張を全く根拠がないとして、開示による所属(企業)の権利利益の侵害のおそれを否定することはできない。
このため、当該情報の条例第9条第2項第3号該当性は否定できない。
(4)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、本件研修に係る名簿の作成等に関連して種々の主張をしているところであるが、当審議会は実施機関が行った部分開示決定について、条例に則り開示・非開示の判断の妥当性等について判断するものであり、当該主張は当審議会の判断を左右するものではない。
以上より、第1「審議会の結論」のとおり答申する。

鳥取県情報公開審議会答申 part1

部落解放鳥取県企業連合会による加点研修の実績報告書で受講した企業が開示されなかった件について、不開示となった理由を説明してもらう趣旨で提出していた異議申し立てに対し、鳥取県情報公開審議会の答申が出ました。結論からすれば、企業名は開示されなかった訳ですが、次の点が明らかとなりました。
受講した企業が公表されていない理由について、県管理課は「公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、鳥取県情報公開条例第9条第2項第3号アに該当するため」としていました。しかし、情報公開審議会の答申によれば、企業の役員等が同和地区出身者であると推定されることが特定の個人を識別する情報に当たり、同条例の第9条第2項第2号に当たるとしており、当初の不開示理由とは食い違っています。条例第9条第2項第3号に該当する可能性については「否定できない」としていますが、第9条第2項第2号とは異なり明言を避けています。
当初管理課は、同和地区出身者を特定できるような情報を収集していたのであれば個人情報保護条例に違反するのではないかという指摘に対して「研修には事業者の役員や従業員が参加し受講しますが、そのことから受講者が同和地区の出身であるかどうかがわかるものではありません。」と回答していたこととは矛盾する結果になっています。微妙な言い回しながら、情報公開審議会の答申では、受講者名簿が、誰が同和地区出身者なのかを推定できるようなものであったことを認めています。
部落差別により「個人の権利利益を不当に侵害するおそれ」について、県は具体的な事例を把握していません。答申では「実施機関は具体的に権利利益を侵害された企業名等は特定していない」としています。「企業連からの聞き取り等により、その事象が存在することは推測できる」ということだけを根拠としており、誰が、いつ、どのような権利利益を侵害されたという具体的な事例を全く示すことができないという状態です。
次回はこの答申の全文を掲載します。

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