鳥取工業高校と鳥取西工業高校の差別事件

2000年3月20日解放新聞より

学校で差別発言事件が多発 「おまえ、エタかいや」など
【鳥取】「おまえ、エタかいや」など、連続して五件の生徒による差別発言事件(別掲)が発覚した、県立鳥取工業高校などにたいする糾弾会を二月二十六日午後、鳥取市解放センターでひらいた。そのなかで、①「同和」教育は特設の授業だけどの認識で学校全体のとりくみになっておらず②差別発言や問題発言がその場で私的される状況になく③そのため部落出身者がみずからの立場を明らかにすることや差別発言を指摘し問題を提起することが困難になっている、ことなどが明らかになり、学校側との共通認識として確認した。さらに、生徒が安心して通える学校へと変革するために、①差別発言をした生徒の認識を分析し、学校としての課題を明らかにする②そのさい、PTAや保護者会へのとりくみがみえていないことをふまえて文書にする③県教委の見解はきわめて不十分であり、県教委としての責任を明らかにした見解をあらためて提出する、ことなどを確認。三月二十日までに文書を提出し、それをもとにひきつづき糾弾会をもつこととした。
鳥取県内、2年間に16件
鳥取県内では、この二年間で十六件の差別事件が中・高校で発覚。時間が経過してから部落解放研究交流会で打ち明けられるケースも目立ったため、教育現場でのとりくみの形骸化が指摘され、東部、中部、西部の県内三地協で糾弾会を積みあげ課題を明らかにし、最終的に県連が糾弾会を集約していくことにしている。今回の糾弾会はその一環で、東部地区協議会が主催。県立鳥取工業高校の五件、県立鳥取西工業高校の一件を対象にもったもの。二校の校長はじめ教職員、県教委、鳥取市行政など百二十人と他校の教職員ら七十人が出席、部落解放同盟からは中田幸雄・東部地協議長を先頭に百六十人が参加した。
マイナスイメージにもとづいて
糾弾会では、六つの事件の事実関係を確認。山田幸夫・東部地協書記長が、発言は部落のマイナスイメージにもとづき、相手に打撃を与えることを意図しておこなわれた差別発言であり、その背景に、①「同和」教育が全領域で位置づかず、特設ロングホームルームに矮小化されている②そのため、日常的に人をおとしめる発言などが無批判におこなわれており、部落差別は他人事という意識が根強くあり③部落出身生徒が自らの立場を明らかにしたり、問題を提起しにくい状況がある、ことを指摘した。
さらに今後の課題として、①全教職員のとりくみにする必要性②マイナスイメージさけの高校「同和」教育の見直し③差別事件の教材化と保護者啓発④関係団体との連携、などを提起し、共通の認識として確認した。
不安を指摘する声もあいついで
参加者からは、生徒が学校に問題提起できないぐらい不安をもっている現状を指摘する声があいついだ。「学校では問題発言、差別発言が飛びかっており、この状況では学校に何もいえない」と涙を流しながらの高校生からの青年への訴えがあったこと。差別発言した生徒が聞きとりのなかで「特設ロングホームルーム」について「またか。たいぎい」と感じていたことなどを示し、この場は「これからやります」ということをいう場ではなく、なぜできなかったのか、その問題点をだす場であることを訴え、率直な対応をと重ねて求めた。
学校からは「信頼関係でなく『対策』をしてきたところに原因がある」などの発言はあったものの、解放研交流会の存在を知っていた教職員は五分の一程度であったことも明らかになった。
さらに、鳥取工業高校が差別事件発覚後におこなった研修のなかで、部落差別を助長すると思われる講座が実施され、その問題点をだれも指摘していないことも示され、問題の根深さが浮きぼりになった。
このため、今回の糾弾集会での提起をふまえ、三月二十日までに文書を提出し、あらためて糾弾集会をもつことを確認。一日も早く生徒が安心して学校へ行けるような状況にするよう強く求め、第一回目の糾弾会を終えた。

「差別発言事件」の内容は次のようなものです。

  • 生徒数人がふざけあう中で、ある生徒が「お前、被差別部落だろう」と発言した。
  • 休憩時間中に生徒が他の生徒に「お前、エタかいや」と発言。
  • 「世界を征服したら何をするか」という話題で「お前の住んでいるところを被差別部落にするぞ」と発言。

…などです。

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統一応募用紙と人権局

鳥取県の各種申請用紙から元号が省かれたという件について、人権局は「日本の元号に馴染みのない外国人に配慮した」とか「本人の意思に反して元号を書くことを強いるのは人権上の問題であるから」と説明していたことは以前の記事で採り上げました。もちろん、この説明は間違いでした。対象となった申請書は日本語のものばかりなので、そのような書類を書くことができる外国人が、元号に馴染みがないというのは考えられないからです。
もう少し人権局に問い詰めてみたところ、ようやく本当の理由が見えてきました。こういった申請書の改訂が単なる事務手続き上のことではなく、「人権上の問題」となっているのは、歴史的な経緯があります。
戦後間もないころ、企業が従業員を採用するに当たって、身元調査をするのは当たり前のことでした。例えば共産党関係者などは普通に排除されました。その中で、部落出身者が排除されるということもありました。
このように思想信条や旧身分で差別するような採用選考が行われることがないよう、各地で規格化された「統一応募用紙」が作られるようになります。企業が統一応募用紙の採用するよう運動を推進したのは、主に部落解放同盟でした。
以下は、1980年代に鳥取県内で就職活動をする高校生が、学校から記入を求められた「就職受験報告書」です。私の高校時代(1990年代)にもこういったものが配布されていました。
就職受験報告書

公正採用を求める運動は、次第に過激化していきました。当初は思想信条や旧身分を採用条件とすることを防止することが目的でしたが、ついには思想信条に関することや、住所を聞いただけでも「差別事件」として糾弾されるようになります。ちなみに「思想信条に関すること」というのは、愛読書や尊敬する人、といった程度のことです。
1994年、中国電力などで就職差別があったとして、企業や行政が何度も部落解放同盟から糾弾されるということが起こっています。もちろん、実際に就職差別があったわけではなくて、「就職差別につながる質問」があったということです。
人権局が申請書の項目に敏感なのは、こういった背景があります。

椋田昇一氏にインタビュー(2)

さらに、1990年代半ばに行われた、農協に絡む結婚差別問題についての糾弾に話が及びました。農協の建物に一角にある理髪店の職員の弟が被差別部落の人と結婚したとき、親戚が誰も結婚式に参加せず、弟の兄が差別発言をしたのがきっかけです。

私) それで農協が糾弾されたのか?
椋田氏) 農協が差別をしたという糾弾ではない。ただ、農協側が農協の直営ではないので関係ないと言ったのに対し、直営はないにしても農協関係の人が相談に来ているのだから誠意を持って取り組んで欲しいということを提起したのだと思う。
私) そのことがきっかけで農協は教育・啓発に取り組むようになったようだが?
椋田氏) それだけではないと思う。日ノ丸自動車ほど頻繁ではないが農協に対しては何度も糾弾があった。
私) 当の本人(理髪店の職員の兄弟)はどうなったのか?まさか「農協を糾弾してくれ」と解放センターに相談に来るとは思えないが。
椋田氏) 本人がある面加害者でもあるので議論はされているはずだが、よく覚えていない。

農協の件については、「親戚の仲を取り持って欲しい」といった相談はなかったのではないか、ということでしたが、その後どのように解決されたのか、明確な答えを得ることが出来ませんでした。
さらに、人権救済条例について核心の部分を質問しました。

私) 加害者に対する啓発・指導といったことを入れるように求めたのは椋田さんと考えてよいのか?
椋田氏) 単に謝ってで終わりではなく、あるいは逆に謝らなかったから氏名を公表して終わりではなく、差別意識を変革するというのが私の考え方だ。心情面で終わらせたり、権力で規制するのでなく教育や啓発が必要だと思っている。
私) 単刀直入に言えば、これは糾弾を念頭に入れたものか?
椋田氏) それはむしろ違う。人権委員会に上がるという事は、当事者同士の話し合いを模索することが前提となる。それを妨げるような人権委員会になってはならないと思っている。教育や啓発が糾弾に結びつくというのは不可解だ。
しかし、誠意を持って対応しない場合は、被害者が泣き寝入りをしないために人権委員会が出てくる。ただ、人権委員会が行うことと、当事者を糾弾することは別の話だと思う。

さらに、この取材の2日前に人権救済条例の見直し委員会で、教育・啓発について「下品とは言わないが上品なやり方ではない」「殺人犯であっても内心の自由は保障されている」といった発言があった話をしました。さすがに椋田氏も少し不機嫌そうな様子で、「差別をする自由はない」という返答でした。

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椋田昇一氏にインタビュー(1)

椋田氏については、前回の記事の疑問に加え、氏が関わっている「人権尊重の社会作り条例」が制定される過程についても疑問がありました。そこで、今年の8月1日に、鳥取県人権尊重の社会づくり協議会委員の椋田昇一氏にインタビューしてきました。氏は現在は鳥取市人権情報センターの副所長という肩書きです。
以下は、取材メモから要約したものです。

私) 人権尊重の社会作り条例が制定される過程で、椋田さんは部落差別撤廃の条例を作るのか、人権啓発の条例をつくるのか二者択一を県に迫っているが?
椋田氏) 当初は部落差別撤廃条例を作ろうという要求があった。それに対して県は部落問題だけではなく様々な人権を対象にしようとした。そして、その中に部落問題の解決ということが位置づけられていればよいのではということになった。
私) 人権救済条例の際にも同様の交渉はあったのか?
椋田氏) 私はもう解放同盟としては関わっていないので承知していない。
私) 2002年当時(椋田氏が解放同盟の書記次長であったころ)にはすでに動きがあったようだが。
椋田氏) (個人的な印象として)当時は今の人権救済条例のイメージまではできていなかった気がする。ただ、部落解放基本法の制定運動が流れとしてはある。部落解放基本法案には差別撤廃の理念を定めた宣言法的部分、被差別部落の差別実態解消のための事業法的部分、差別意識を変革する教育・啓発法的部分、特に悪質な差別行為を規制し被害者を救済する4つの要素があった。全てをパッケージ化した部落解放基本法の制定は現実的に難しかったので、各要素を実現してゆくという柔軟路線をとった。それが2002年に制定された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」や国の人権擁護法案である。そういう意味では考え方はつながっていると思う。
私) 2000年から2002年にかけて日ノ丸自動車、JR、山陰合同銀行、農協、鳥取工業高校、鳥取西工業高校などが相次いで糾弾されている。その当時、例えば普段椋田さんと仲良くしている方でも「お前はそっちだ!」と言われて壇上(糾弾を受ける側)に上がらされたといった話を聞いたが?それから「鳥取スタイル」というような話も聞いている。
椋田氏) 全然聞いたことがない。私のような立場の人間には、残念ながらそういった声が届かないことがある。私もそういったことを聞いたことがないから、むしろ事実かどうか知りたい。
直接覚えがあるのは日ノ丸自動車。壇上に上がれ、といったような話であれば、今回はあなたは糾弾される側でしょということであれば状況によって言っている可能性はある。鳥取工業高校、鳥取西工業高校については直接は関わっていない。

(次回に続きます…)

加害者に対する啓発・指導とは何を意味するのか

鳥取県人権救済条例の特徴として、被害者の救済だけではなく、加害者に対して行われる措置というのがあります。条例の中で、そのことに関するのは以下の部分です。
第21条の2号

人権侵害を行い、若しくは行うおそれのある者又はこれを助長し、若しくは誘発する行為を行う者及びその関係者(以下「加害者等」という。)に対し、当該行為に関する説示、人権尊重の理念に関する啓発その他の指導をすること。

第24条の1項

委員会は、生命若しくは身体に危険を及ぼす行為、公然と繰り返される差別的言動、ひぼう若しくは中傷等の重大な人権侵害が現に行われ、又は行われたと認める場合において、当該人権侵害による被害を救済し、又は予防するため必要があると認めるときは、第21条に規定する措置を講ずるほか、次に掲げる措置を講ずるものとする。
(1) 加害者等に対し当該人権侵害をやめ、又はこれと同様の行為を将来行わないよう勧告すること。
(2) 加害者等に対し人権啓発に関する研修等への参加を勧奨すること。

この加害者等に対して行われる啓発、指導、研修は、「糾弾」ではないかということが条例が出来た当初から危惧されていました。それは、部落差別に関する問題に絡んで、啓発というよりは、単なる報復や吊るし上げに近い糾弾が行われてきたためです。一般のマスコミではほとんどタブーになっていますが、行過ぎた糾弾による自殺者も出ています過去の記事でも触れた通り、吊るし上げに近い糾弾は鳥取でも行われていました。糾弾を行っていたのは、部落解放同盟です。部落解放同盟は、鳥取県連を含め、この糾弾という行為を未だ否定していません。
鳥取で行われた糾弾に居合わせた複数の人物から話を聞いたところでは、共通して、ある人物の名前が挙がってきました。鳥取県人権尊重の社会づくり協議会委員の椋田昇一氏です。椋田氏は、2002年頃まで部落解放同盟鳥取県連の書記次長として、糾弾会では指導的立場であったと言います。
確かに、人権条例に啓発、指導といった内容を入れるように主張していたのは椋田氏です。例えば平成15年9月11日の人権救済制度についての会議録に、次の発言が書かれています。

(朴委員)被害者の救済ということばかりではなく、加害者への啓発、人権侵害が許されない罪悪であるかということを分からせることも大事なことであると思う。
(椋田委員)朴委員の意見に賛成である。人権侵害のものによってそれぞれ対応も異なるだろうが、単に物や形で解決したり、言葉で謝罪しただけでは駄目である。加害者に対する是正指導も権限を持ってやっていく必要があるのではないか。第二第三の侵害を起こさせないよう是正指導、啓発教育とそして救済という三位一体でやっていく必要がある。多くの人権侵害の場合、対処療法だけで終わっているがそれだけでは不十分な場合もある。
もう一点は、私間の人権侵害については、民間レベルの取り組みを最大限尊重するべきであるということ。こうゆう制度を作ることで民間レベルの取り組みを逆に押さえつけることになってはならない。加害者の駆け込み寺になるようなものにしてはならないということ。
もう一点は、公というか官というか、行政レベルの人権侵害については、知事が議会答弁で答えられていたようにオンブズパーソン的な制度がいいのではないか。官の中で起きた問題を官が設置する機関で本当に救済できるかということ。
どちらにしても、行政レベルでの取り組みと、民間レベルの取り組みと、そしてこことの連携、協働という視点もふまえて検討していく必要があると思う。

これは、「糾弾」という私的救済を念頭に入れた発言のように取れます。
なおウェブ上で収集済みの議事録の全文は以下をご覧下さい。
社会作り協議会議事録詰め合わせ.zip
実は、椋田氏には2回に渡って直接会う機会がありました。当然、人権条例や糾弾について率直な疑問をぶつけてみました。それについては、次回採り上げることとします。

人権アンケートに不適切質問(山口)

古い記事ですが、興味深かったので掲載します。
2003年1月14日、朝日新聞より引用。

山口県玖珂(くが)町教委が町民を対象に実施した「人権問題に関するアンケート」で、心身障害者や「同和地区の人」との結婚についての意識を尋ねていたことがわかった。
町教委は町民から「差別や偏見を助長する質問で、不適切」との指摘を受け、13日までにアンケートの中止と用紙の回収を決めた。
町教委によると、アンケートは昨年12月、人権教育の新たな指針を作るために、無作為に抽出した20歳以上の男女計1000人を対象に、実施された。無記名で今月末までに回答するように求めていた。
問題の質問は、「人権の個別的な課題について」の項目のひとつ。「次のような人(心身障害者、外国人、感染症患者、罪や非行を犯した人、同和地区の人)との結婚についてお聞きします」とある。
回答者が既婚なら自分の子ども、未婚なら本人が、その立場の人と結婚する場合の対応を尋ねたもので、既婚の場合は「子どもの意志を尊重する」「家族や親戚(しんせき)の者が反対なら認めない」「誰が何と言っても絶対に反対する」など5つの選択肢から選ぶ。未婚の場合も同様に「自分の意志を貫き結婚する」「家族や親戚の者が絶対反対なら仕方なく結婚をあきらめる」などの4通りの回答が用意されている。
このアンケートに対し、町民の男性が「列挙された人たちに対する差別や偏見を助長する質問で適切ではない」と抗議。町教委は県教委と相談し、10日に中止と用紙の回収を決定した。担当職員が「質問事項に不適切な項目が含まれていた」とする謝罪文を持って各家庭を回り、ほぼ回収し終えたという。
町教委の伊藤卓男・教育次長は「具体的にどの質問が不適切だったかは言えないが、一部質問に配慮が足りなかった。深く反省し心からおわびしたい」と話している。

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同和関係世帯の世帯主名簿

以前、同和地区実態把握等調査(生活実態調査)についてご紹介しました。この調査では対象世帯の名簿を持って調査員が回るわけですが、その世帯名簿は事前に行われる地区概況調査で作成されていました。
地区概況調査の実施要領を見るにはこちらをクリックして下さい。
この資料では、世帯主名簿の作成準備として「個人的給付事業の対象者名簿の整理」「地元精通者等に協力を求める」ということが挙げられています。同和対策を行っている市町村では、当然地区や地区住民を把握しているため、こういった資料や住民基本台帳をもとに世帯名簿を作成するようです。以前の記事でも触れたとおり、本人の知らない間に情報は収集されるため、知らない間に調査対象の世帯になっていた、ということも起こります。
作成された世帯名簿は市町村が保管し、県には各地区の世帯数一覧表が提出されます。つまり、住民の個人情報は市町村止まりで県には行かないようになっています。とは言え、鳥取県個人情報保護条例第7条で収集が禁止されている「社会的差別の原因となるおそれのある個人情報」(鳥取県個人情報保護条例施行規則第5条で「同和地区の出身であることに関する情報」がこれに該当することが明記されている)を収集することになるため、例外規定を適用するために鳥取県個人情報保護審議会による審議が行われています。なお、県によれば審議は平成12年に行われた前々回の同和地区実態把握等調査の際に行われたそうです。
世帯主名簿は当然のことながら厳重に管理され、実態調査事務の終了後一年(今年の7月31日)をもって処分されています。しかし、「市町が保有している資料等により世帯主名簿の代替ができる場合は、新たに作成する必要はないこと。」と規定があるため、独自に世帯主名簿に順ずるものを作成している自治体があるようです。
そこで、市町村の1つである我が鳥取市の同和対策課に「鳥取市は同和関係世帯の世帯名簿を現在保有しているか」とFAXで単刀直入な質問をぶつけてみたのですが、「『同和地区世帯名簿』といったものは保有していません。」という回答が返ってきました。「現在保有しているか」という質問をしたので、市は県の要請に基づいて名簿を作成して、既に処分してしまったということかも知れません。
[2006.9.2]
追加報告です。鳥取市内のとある隣保館に聞いたところ、平成17年度の調査の際に、確かに市役所で同和地区の世帯名簿を閲覧したということでした。これを受けて再び同和対策課に問い合わせたところ、実は世帯名簿は作られていたが、現在はシュレッダーで処分されたということでした。
なぜFAXでは保有していないと回答したのかを問いただすと、現在の同和対策課長は昨年の調査には関わっていないので知らなかったということでした。さらに、名簿がどのような方法で作られたのか聞くと、「分からない」ということでした。

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過料や氏名の公表まで県外を対象にしたのは県側のミス?

元社会作り協議会委員の松田章義氏に、条例の県外適用について電話取材しました。以下は、その要旨です。

私) 条例の県外への適用を強く主張されていたようですが?
松田氏) 鳥取県民が県外に出かけて差別や人権侵害を受け、鳥取県に帰ってから申し出た場合に、県外のことだから門前払いするのは、なんとなくつれないのではないかと。せめて、県外の行政機関や人権擁護のしかるべき機関や団体に問い合わせをして、調査するくらいのことはあってもいいと言った記憶がある。
しかし、県外の該当者を追いかけて処分するとか、問いただしたり処断することまでは、できないという趣旨で発言した。
私) 結果としては、県外まで対象になるととらえられて、県外から批判されることになったが、どのように思われますか?
松田氏) 私が委員会で申したときには、県外まで出かけていって強権的にどうこうしようという考えは持ち合わせていませんでした。せめて問い合わせてみるという程度の準備をしていてよいのではという程度のことでした。
私) 条文には県外の事案も申し立てできるるようになっていますが、それは松田さんが想定されたことだったのですか?
松田氏) 県がどこまで対応するという文言になっていたでしょか?
私) 調査であるとか、応じない場合は過料や氏名の公表となっています。
松田氏) そんなことまで?
私) 条文の上では県外のことは排除されていません。
松田氏) 私どもも最終段階まで責任もって見届けるという形にならなかったですね。県が委員の意見を聴取するが、あとは県の方にお任せ下さいというやり方でした。それで作成委員の方には不満が残った。
委員長の國歳氏もそのことは最後まで言っていました。7割がたの意見が採用されて、3割は県の事務局に任せる形になりました。
私) 確かに過料や氏名の公表は人権局が入れてきた部分です。
松田氏) 私は当初から氏名の公表には異議をとなえていました。それから、過料というようなことが県の条例のレベルでできるのか疑問を発していました。やりすぎというか、無理でないかといったことは当初から言い続けていた。県外まで捜査するとか、過料とか氏名の公表ということは毛頭なかったですね。
私) 県外も対象にするような主張をした趣旨は、あくまで過料や氏名の公表まではしないという前提であったということですか?
松田氏) もちろんそうです。その上で県外の事案で申し出があった場合に受理せず門前払いというのは冷たすぎはしないかと強く主張したつもりです。
松田氏) 私はここまで強権的なものを作ることを片山知事が了承したのか疑問をもっていた。

また、松田氏は「知事がOKしたのか?」と聞いたのは、こういった強権的なものまで知事が了承したのか疑問を持っていたのだと話していました。
確かに、松田氏は先の議事録で、氏名の公表といった処分に疑問をはさんでいます。

松田委員 勧告に従わないとき、住所・氏名を公表。公表はできると規定し、県広報への掲載とか云々。このあたりは、しっかり詰めておられるのか。
安田委員 かえって人権侵害になるのでは。
中島局長 よほどのことだ。
松田委員 いろんな方法があるなかで、ここまで書かれるということは、相当の覚悟のうえということで受け止めていいのか。
中島局長 よほど悪質で、故意で止めそうにないという場合には、ここまでするつもりで制度を作っていきたい。
松田委員 公務員の不祥事でも、その者の名前や職名や年齢について出すか出さないかということで大きく意見が分かれる時代のなかで、住所、氏名まで公表というとこまでするのは、法的な根拠ができているのか。今度聞きたいと思います。

松田委員をはじめとして、対象範囲を広げる方向での議論がある一方で、実質的な罰則など強権的な条例にしようとする動きもありました。最終的な調整を誤り、強権的でなおかつ違法なまでに対象範囲の広い条例になってしまったのは両者に齟齬があったと言えそうです。条例を適法なものとするには、強権的な部分については範囲をしぼる条項が必要であったはずです。

片山知事「県外のことは仕方ないなと」

引き続き各委員から、条例の県外適用の問題に限らず、社会作り協議会の意見が十分に反映されていないという不満が出されました。例えば、福間委員からは「検討委員会や協議会の意見が八割以上、八割が適当かわからないが、入っていないと検討委員会や協議会の意味が無くなってしまうと思う。」という発言がされています。
そして、松田委員が再び県外も対象とするべきだといった趣旨の主張を行っています。

松田委員 私が最初に問題提起したことは、条例の適用外の県外で発生したものについて、それを拾い上げるような正に救済の申し出があった場合には、当該県と連絡、調整し協議するということを運用として残しておかないと、県外の人権侵害は対象外だという文言を示されたり、知事が納得したとか、パブリックコメントにこれを出しますとか言うことになれば、大騒動になる。我々も責任はもてない。運用上のこととしてそういう考え方を持っていてほしい。
中島局長 それは分かりますが、先ほどから言っていますように、本来の制度というものをちゃんと県民に理解してもらわないと、できないことまでできるように期待されていてもそれは困る。制度がはじまって、どれくらいの相談が上がってくるのか、それに対して、相談員なり、事務局がどんな対応をするのかそれは動かしてみないと分からない部分もある。その時点で県外で発生したものまで人権委員会が対象にして動きますよとは今の時点ではそこまではいえない。

そして、条例の県外適用が不可能であることを知事が認識していたことを示す発言が、中島局長よりされています。

松田委員 これは知事さんが、OKしているのですか。
中島局長 既に、見てもらっている。基本的な考え方で、細かいところまではまだだが、これに沿って了解はもらっています。
松田委員 こんなことを、OKしているのですか。
中島局長 知事も制度は分かっていますから、県外のことは仕方ないなと。
松田委員 だから、さっきから言うように、条例外のことだけども申立てがあった場合は、人権委員会が運用上その世話をするということを残しておいたらどうですかということで、無理なことではない。

条例の県外適用は松田委員がくりかえし要請したことにより、条例に組み込まれました。そして、皮肉にも松田委員の予想とは正反対に、県外からの苦情が殺到し「大騒動」になったのはご存知の通りです。
松田氏は、なぜここまで強硬に条例の県外適用を主張したのか?これについては追って取材予定です。

社会作り協議会が暴走 「県外条項」が入ってしまった過程

検討会議事録の原文をアップロードしました
人権侵害救済検討会(情報公開請求による資料).pdf
(2~5回目の議事録は開示されていません)
条例の県外への適用について、不可能であることを説明した中島人権局長(当時)ですが、さらに松田委員が食い下がります。

松田委員 条例の効力が及ばないことは、委員のみなさんは知っているところだ。ただ、運用で、県外での県民の被害に対して、該当県に対しての問い合わせ、調整、あっせんなど、場合によっては出向いていくようなことを、運用としてできるという認識を持つ必要がある。
中島局長 実務上は、可能な場合もあると思われる。それはケースバイケースだと思う。

前回まで検討会の座長を務めてきた國歳委員、さらに椋田委員も松田委員を擁護する発言をします。

國歳委員 条例が、その範囲内でしか効力がないことはみんな知っているところ。ただ、そのことを、こういう形でどこかに書き表すことが必要かどうかということ。当然必要な対応はするのだろうと思うが、ここにこうしてきちんと書かれると、何もできないのではないかと思われてしまうのではないか。松田先生は、そういうことをわざわざ書く必要がないのではないかということ。
中島局長 条例の条文上は、でてこない。ただこの制度の基本的な考え方そのものは、県民の人にパブリックコメントの時に理解してもらわないと、県外で発生したものについても、この条例が適用になると誤解されると、期待を裏切ることになる。法制と協議をするが条文上は出てこないことになると思う。
椋田委員 局長が言われたことは、我々は認識していることだ。認識したうえで、松田委員の発言があったもの。それを国の法律は国内、県の条例は県内でしか通用しませんというのは、血の通った制度になっていないのではないか。(以下略)

その後、椋田委員からは、県の資料に「不当な差別」と書かれていることについて「差別に不当なものも不当でないものはないということで、『差別』とすることで、基本合意がされたと思う。」とした上で、検討会の意見を反映しない県の市政を批判する意見が述べられました。
しばらく、検討会の位置づけについて、椋田委員と中島委員の間で議論が交わされますが、再び松田委員は県外への適用に固執します。

松田委員 これまで議論を重ねてきて、それを踏まえて条例をつくることは専門家に任せればいいが、出来上がったものがパブリックコメントにでて、それが我々が協議してきたものと違うということになれば、我々は責任がもてない。これまで意見を聞いてきたのであとは事務局でしますよという考えもあるかもしれないが、出来上がったものを示していただいて、これで出しますよという機会がもう一度あるのが当然ではないか。今日のこの基本的な考え方は、これが出てしまってはやばいですよ。幾つか指摘したい箇所はあるけれど、この県内で発生したものが対象というようなことが一人歩きしては困る。そんなことを話し合ってきた覚えは無い。
中島局長 ただ、これは法制度うえの当然のことでありどうしようもいないこと。法律や条令の制度というものは、我々が行政をやっていくうえで、根本、基本になるもの。
松田委員 ただ、一般県民にそういうことを行っても総攻撃を受けるのでは・・・
中島局長 だからこそ、しっかりと説明をしなければならない。
松田委員 例えば制度の運用として、県外で起こったものについて、連絡、斡旋、調整をやるということは考えていたのか。
中島局長 事実上は可能なこともあろうが、基本的に条例で作る救済制度では及ばない。法制度上、効力の及ばないものを規定して県民にいかにもできそうな期待を与えるということは、本来のあるべき姿ではない。できること、できないことをしっかり認識してもらうことは、制度を県民に有効活用してもらう上で大前提である。

そして、藤村委員がさらに強硬な主張をします。

藤村委員 正直言って委員を辞めたい。余りにもひどい。今まで話をしたことが全然はいっていない。まず、事務局の対応が今まで話したことを採り上げてそれを?するならいいが、事務局で作ったものをこれでやりますからと言われて、これまでの話が全然入っていないような感じを受ける。これまでは、もらったこの案(3月までの条例素案)で、文言等も議論し、こういうものができるんだと思いながら話し合いをしてきたが、いきなりそんなものは知りませんよ、これでいきますよと言われて、はいそうですかでは私たしが委員である意味が全然ない。
西村係長 これまでは条例の素案をともにしてきましたが、それを基本的な考え方にまとめさせてもらったという認識をしています。
藤村委員 例えば素案では、何人も県民の人権に関する問題について人権委員会に相談することができる、となっている。県民のとは書いているが、県内のとは書いていない。そのへんのことは福間先生も言われたが、枠のなかだけでは難しくできないこともあるので枠を超えなければならないところもでてくるけど、やってみようという気持ちできたと思う。そういうことで一生懸命話をしてきたけど、枠の中でしかできませんよと言うことなんですね。
中島局長 そのとおりです。
藤村委員 それだったら、委員を辞めたい。これをだされて、委員会で話し合ってきたと言われたら、私は堪えられない。話を聞きましたから事務局が勝手に作くりましたというのであればそれでかまわないが、やり方が余りにもひどい。いままでのことが意味がない。

(次回に続きます)

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