本サイトに掲載した偽の部落地名総鑑の扱いについて、情報公開・個人情報保護審査会が答申の中で行政機関個人情報保護法に基づいて開示すべきとの判断を示しましたが、法務省は答申に反して不開示としました。その理由については、以下の裁決書をご覧ください。
裁決書-H23-1-27.pdf
滋賀県教育委員会も同様のことをしたように、審議会の答申というのは、何の法的拘束力もないので、その扱いとういうのはこの程度のものです。同和対策審議会答申のように45年経っても金科玉条のように扱われている方が、むしろ特殊な例でしょう。
興味深いのが非開示の理由です。行政機関個人情報保護法14条7号を根拠としているのですが、これは「事務事業遂行情報」と呼ばれるものです。法務省の説明によれば「人権擁護機関に対する国民からの信頼が失われ」ることが事務事業に支障が出る理由だそうです。以下、法務省の説明を引用します。
文書4(註:偽の部落地名総鑑のこと)には大津地方法務局が調査の過程で収集した特定の地域に関する情報が標題とともに多数掲げられたものが記載されている。審査請求人は、文書4の不開示部分は、審査請求人が自ら開設している特定ブログ等の内容を印刷したものであり、審査請求人が知り得ている情報であると主張するが、審査請求人が知り得ている情報か否かにかかわらず、当該部分には特定の地域に関する情報が多数掲げられ、その内容からして、それが事実であるか否かを問わず、差別を助長する可能性のある情報として、人権擁護機関が長年にわたりその排除に取り組んできた対象となるものと認められる。当該部分の情報は、削除要請の対象であるから、同部分を開示することは、それ自体上記取組と相反するものと言わざるを得ない。このような性質の収集情報を自ら開示することになれば、人権擁護機関に対する国民からの信頼が失われ、人権侵犯事件の処理において、関係者から情報提供、調査への協力を得ること等が困難になるなど、職員による事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
もちろん単にそれだけのことであれば、これは違法だと思います。なぜなら、そんなことが理由になるのであれば、例えば情報を開示すると実施機関の不正行為が明らかになるような情報も「国民からの信頼が失われ」る情報なので、非開示にしてもよいということになってしまいます。
問題は、その「事務事業」が法的保護に値するようなものかどうかです。もし、偽の部落地名総鑑が本当に人権侵害につながるものであれば、行政機関個人情報保護法14条2項にある「開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を理由にすればよいだけのことです。それをしないのは、偽の部落地名総鑑が誰の権利利益を侵害するのか、説明できないからでしょう。単に「長年にわたりその排除に取り組んできた」実績があることだけが理由であって、典型的な自己目的化のように思えます。税金の無駄遣いではないでしょうか。
とにかく、確実なのは次のことです。
- 実際に人権侵害が起こるかどうか分からないような、単なる住所の羅列でも法務省から「部落地名総鑑」と認定してもらえること。
- 実際に誰かの人権を守ることになるかどうかは関係なく、「人権擁護機関に対する国民からの信頼」を守るために、そのような情報を排除することが法務省の仕事であること。
- 法務省は、部落地名総鑑が本物かどうか判断できず、また本物かどうかに関わらず部落地名総鑑をネットに堂々と掲載して、法務局からの削除要請を無視しても何のおとがめもないこと。
ということで、法務省が必死に排除しようとしている部落地名総鑑は以下のファイルですので、ぜひダウンロードしてどんな物か確認してみてください。「人権擁護機関が長年にわたりその排除に取り組んできた対象となるものと認められる」というのですから、ある意味本物です。
部落地名総鑑.zip
法務省人権擁護局の仕事は、その程度のもと見て問題なさそうです。月刊「同和と在日」2月号で三品純氏が指摘している、「人権運動が組織化した時、本当に守るのは「人」でなくなる」というのはこういうことでしょう。
ちなみに、今さらどうでもよいことですが、法務局に通報したのは部落解放同盟滋賀県連のようです。