同和行政の恩恵を受ける県民(3)

智頭町では、人権政策を推進する目的として、役人として率直に財政措置を期待する一方で、「地元で差別があれば出来る限りのことはしたい」という答えが返ってきました。鳥取県内の全ての市町村に共通することですが、部落差別については、智頭町は現存するという立場で施策をすすめています。
具体的な問題について聞いてみると、かつて同和地区では日雇い労働が多かったことから、高齢世帯で年金の給付額が少なく、高齢化の影響をもろに受けてしまう、ということでした。若い人はどうかと言えば、同和地区に限らず町内に職がないので、よそに行ってしまうといった状態です。
再び、同和減免に話題を戻します。「被差別物件」に対する固定資産税の減免制度は、本来は部落差別により売ろうにも売れない物件を売りやすくするために設けられたものでした。現に同和地区に建てられた物件に対して適用される「属地主義」が原則ですが、鳥取市あるいは智頭町でも、同和関係住民が同和地区外に建てた物件にも適用される「属地主義」的な運用がされていました。しかし、関係者は次のように語ります。
「やはり、おかしいのではないかという発想が出ています。地元に固定資産を持つのと、地元から出てきて駅前に土地を買われたのと、どちらとも減免をしないといけないような土地かというと違います。同和地区の土地だと売りにくいけれども、駅前の土地ならすぐにでも売れますから、それはおかしいということで見直しが進められています。ただ、個人のものですので、難しいところですが、基本的にはやめる方向です。」
智頭町同和対策に係る固定資産税の減免措置要綱を見ると、確かに減免の割合は減る一方です。智頭町は過疎や産業の衰退という今そこにある問題に直面しているためか、鳥取市よりも危機感は強いのかも知れません。

同和行政の恩恵を受ける県民(2)

なぜ、鳥取県はこれほどまで熱心に同和対策を行ってきたのか?その理由の1つとして、鳥取県が「貧乏県」であることが挙げられます。ご存知のとおり、鳥取県は日本で最も人口が少なく、県民所得も低い方で、県税のような自主財源は期待できません。そこで、地方交付税をはじめとする国からの歳入に頼ることになります。
2002年以前、同和対策や地域改善などの特措法があった時代には、国庫からの補助が受けられる同和対策事業は地方の役人にとって、非常に魅力的なものでした。1980年代、同和対策により同和地区の環境が改善され、一部では地区内と地区外の逆転現象が出るほどになると、「なぜ同和地区だけが…」という不公平感が広がり始めました。そういった声に対して、同和教育や研修などの「啓発」の場で主張されたのが、同和対策によって周辺地域にも恩恵があるということでした。
県内の役所・役場では「同和対策は国からの補助が出るので県民の懐は痛まない、どんどん同和対策を推進しよう。」といった趣旨の研修が行われたと言います。実際、同和地区指定されている地域での施設の建設、道路の整備などを同和対策という名目で行えば、自治体の負担は軽くて済みました。結果として、浮いた予算を周辺地域に回すことができました。「どちらにしても国民の税金じゃないか…」と陰口を叩かれつつも、やはり国から予算を取ってこれるという魅力に勝るものはありませんでした。
鳥取県では、特措法が切れた現在でも、環境改善補助事業といった名目で事実上の同和対策事業が行われています。
人権救済条例や国の人権擁護法案を推進してきた「部落解放・人権政策確立要求」運動に鳥取市をはじめとする自治体が肩入れするのも、そういった事情があるようです。このことについて、鳥取県東部の県境の町、智頭町人権同和政策室からお話を伺うことができました。
私: 役場の横に「部落解放基本法を制定しよう」といった横断幕が出てるんですけど、あれは町が出しているものなのでしょうか?
智頭町: あれは早くから、国の方や県レベルでも(部落解放基本法制定要求)国民運動がありまして、町として入っているものです。今は(部落解放・人権政策確立要求運動に)名前が変わっていますが、鳥取県の市町村はみんな入っていると思います。
私: 鳥取市では竹内市長が入っていますが、智頭町はどうですか?
智頭町: トップ(町長)と教育長が入ってます。
私: (部落解放・人権政策確立要求運動は)人権救済条例や人権擁護法を推進していますが、それは自治体として行っていることなのでしょうか。
智頭町: 差別解消に向けて、全国的な流れの中で人権擁護法案を推進したわけですが、鳥取県が条例を作ったもの国の法案が廃案になって、流れてしまったから全国ネットになってしまったんでしょうね。
私: (部落解放・人権政策確立要求運動は)実質解放同盟ですよね?
智頭町: いや、これは行政ですよ。国の法律があって、補助金など財政措置が欲しいですからね。県レベルでも、法律があって、財政措置は欲しいでしょ。そして、鳥取県だけではできないことですから、全国的な運動として取り組んでいるわけです。
私: 役人としては、予算が欲しいでしょうから、やめられないのでは。
智頭町: そうでもないですよ。今は予算措置もないですから。地元で差別があれば出来る限りのことはしたいし、高齢者や障害者の問題にしても要求があれば出来る限りのことをするのが行政でしょう。
次回に続く…

同和行政の恩恵を受ける県民(1)

去る4月14日、鳥取県内の方から、2通のメールを頂きました。

送信者:ぽち
件名:あほか!!
ここに書いている人たちは平面的にしか物事を捉えたいないですね。もっと現実を捉えてください。なぜ、このようなことが必要なのか。誰が差別を 残してきたのかをきたのかを。まさにここの意見に賛同している人たちでしょうね。このような作る暇があるのならば一日も早く加差別者の手で根絶してくださいな。あくまでも、部落差別は部落外社会が生んでいることが、悲劇を生み出している。哀れなホームページをザーメン。

送信者:部落外利権の真相
件名:さしで勝負しようや
M部とk川さしで勝負しようや。己がおるから差別がなくならへんのや。おのれこそ真の差別者や。おのれこそやっていることが被差別の当事者を苦しめているかわからんのかか。本当に利権のあるのであれば、わしら貧乏な生活をしとらへんわ。どあほ。己こそこれで一儲けしようという思っているのとちゃうか。だいたいこのようなやるやつはねたみ意識を持った周辺地域のやつちゃうか。卑しいものたち。部落外社会の真相を暴いたろうか。とある神社の宮司が祭りのあとで賽銭を洗う行為など。また、部落において、獅子舞を行うときは避けていたが、最近は神社の収益が少なくなってきたために、収益をあげるために部落においても参るようになったとか。銭は差別を超えて背に腹は返らなくって来たわけね。みな周辺地域の氏子たちが考え出したこと。利権は部落外に流失し、その恩恵で超えているのであります。どや。

返信しようと思ったのですが、返信先のメールアドレスは架空のものでした。そこで、今回はこのメールにお答えして「部落外利権」について触れてみたいと思います。
県内のとある事情通は「同和地区は徐々に拡大している」と語ります。鳥取市では「被差別物件」である土地や建物に対する固定資産税が半額免除される制度があり、年間5000万円程度の税が免除されています。固定資産税の減免の対象となる物件は原則として同和地区内にあるものですが、同和関係者が所有する物件であれば地区外であっても減免の対象となります。
実際、同和地区から近隣地区に移り住んでも減免を受けているケースがあります。さらに、県内の事情通は、こう語ります。
「誰とは言わんけどな、同和(関係者)じゃないのにそういう補助を受けとるもんがおるぞ。地番が同和地区で、○○とか△△というような(どこでもある)名字なら分からせんだろ?」
何をもって行政上の「同和関係者」とするかは、とてもいい加減なところがあります。同和関係者の要件として、同和地区に住んでいるということだけでなく、かつての下層身分の祖先であるという条件がありますが、そういった身分が記された古い戸籍は見てはいけないことになっているので、調べようがありません。よく「名字で分かる」と言われますが、地域に固有の名字がいくつかあるくらいで、実際はあまり参考になりません。
特に平成17年の県の実態調査では25歳未満の既婚者の83.9%が夫婦のうち片方だけが同和地区の生まれとなっており、混在が進んでいます。同和関係者の祖先が同和関係者だとすれば、同和関係者は際限なく増え続けることになりますが、固定資産税減免のような優遇制度は希望者が申請して受けることになっています。よって行政上の同和関係者として扱いを受けるかどうかは、血縁関係だけでなく、本人が同和関係者を自称するかどうかにもよります。
次回は、鳥取の行政が同和対策だけでなく「部落解放・人権政策確立」のような政治運動を支援してきた理由に迫ります。

特定される同和地区

全国的には同和地区が存在するという法的根拠は存在しないので、法的な意味での同和地区は存在しないのですが、鳥取県においては確かに同和地区が存在します
以前、取材のために鳥取市に電話したところ、「鳥取市に同和枠(就職上の優遇制度)は存在するのか?」という質問を電話口の方が「鳥取市に同和地区は存在するのか?」と聞き間違えたらしく、「鳥取市に同和地区があるかどうか知ってどうするつもりだ?」と言われて面食らいました。電話して聞くまでもなく、鳥取市に同和地区は存在します。鳥取市のウェブサイトで公開されているものをふくめ、同和地区が存在することを示す行政文書が多数あります。など、その最たるものです。具体的に何とは言いませんが、鳥取市内の同和地区の地名が特定できるような文書までもが公開されています。
部落地名総鑑を問題にしたり、身元調査お断り運動をやっていたりしますが、地域によってはあまり意味をなしてないと思われます。というのも、特に鳥取県の東部地域ではいとも簡単に同和地区を特定できてしまうためです。同和地区児童を明らかにする「立場宣言」もありますが、最近まで学校において実際に同和地区をまわる「村めぐり学習」が行われていました。また、同和地区の場所が特定できるような資料(例えば、○○地区ではこのような伝統行事があって、その背景には部落差別が…というような)が研修の場で配布されたりします。交際相手や、職場の同僚がどこに住んでいるのかは、知ろうとしなくても分かるものです。本当に悪意があれば相手が同和地区住民だと特定して、適当な理由をつけて交際を断ったり、試用期間後に解雇するということはいとも簡単にできます(と言っても、私は鳥取県民にそのようなことをする人はまずいないと思いますが)。
先月、和歌山県の人権施策推進審議会が「調査自体が人権問題だと指摘追及される恐れがある」として人権課題現況調査の実施に反対の意見書を出したことがニュースになりました。その理由は、「かつての(同和対策事業)対象地域を再認識させ、ここが地区であったと一般の意識に呼び戻すおそれがある」ということです。
鳥取県においては
平成17年7月に同和地区実態把握等調査がしっかりと行われています。「同和関係世帯」を把握して、調査員が回るというものです。
それ以外にも、鳥取県においては同和地区の存在を一般の意識に呼び戻す行為は日常的に行われています。たとえば、同和地区が校区内にある「有地区校」では教師が同和地区の児童を把握している、といった実態です。同和対策を行うという事は、必ず同和地区や同和関係住民を特定しなければなりません。そして、そういった情報は必ず一般住民の目に触れ耳に入ります。「同和地区だから」という理由で行われる施策を、単に「必要だから」という理由で行われる施策に切り替えない限り、同和地区内・地区外という分け隔ては、これから先何世代にわたっても永久に続くでしょう。

事業所内における差別事象の一例

平成12年5月に鳥取県より発行された「事業所における同和問題・人権問題の取り組み方」より、ある全国的に有名なサービス業の事業所で起こった「差別事象」を紹介します。

○ A社支社従業員Bさんは入社直後から、自分が属するグループの長のCさんは同和地区出身者であることを聞かされていました。そして自分も他の人にCさんは同和地区出身者であると発言していました。
Bさんは上司であるCさんと仕事上の関係があまりうまくいっておらず、その理由は自分がCさんとは違って同和地区出身者でないためと考えていたところから、Cさんのグループとは別のグループに所属換えをしてほしいと発言したものです。
○ 会社の記念式典に出席したときの雑談の中でFさんは、それに出席していたKさんのことを話題にし、「○○出身のMさんも来ていた」と発言しました。それを聞いたCさんがその発言の差別性を指摘したところ、「○○は広い地域を示すもので、部落のことを指して言ったのではない。『あの人は△△出身だ』という言い方は、他の人も言っている」と発言しました。
○ Cさんは、会社(管理職)にも「人間として大切なことをいうのだが……」として、この差別事象の存在を報告していました。それを受けて支社は、事情聴取と関係者による話し合いの機会をもちました。しかし、Cさんの告発内容に対して、Bさん、Fさんがほぼ全面的に否認したため、事実解明をしないまま放置状態となっていました。Cさんの訴えを受けても、人間関係のトラブルと判断し、然るべき対応をとらないまま、‘注意したので一段落した’と認識していたものです。

さて、なぜこの事例が差別事象になるのか、普通なら「誰が同和地区出身であるかどうかを明らかにした」と考えそうなところですが、この資料の解説は微妙にずれています。以下、解説部分を引用します。

A社においては、このような従業員どおしの会話の中で「○○さんは同和地区出身者」ということがとりざたされていました。そして、こうしたことを言っても差別する気持ちはなく、また、他の人も言っているので問題はないとの一般的意識がありました。
しかし、どういう場で「○○さんは同和地区出身者」という発言がされてきたかを確認した上で、その言葉の裏にある意識は何かを考えると、ことさら○○出身と区別して言う言葉の裏にあるのは「だから注意しなさい」等のニュアンスであったと発言した人が後に認めています。
A社では、そうした差別的意識に基づく発言を差別ととらえて対応することがなかったため、それが温存される結果となっていたものです。

「○○さんは同和地区出身者」という発言自体はあまり問題視していません。というもの、鳥取県においては「寝た子を起こす」であるとか「社会的立場の自覚を深める」という名目で、誰が部落出身か直接または間接的に明らかにされることがしばしばあるためです。学校教育の場では言うまでもないことですし、職場研修でも「村めぐり学習」のような実際に同和地区をまわる学習が行われます。それゆえ、住んでいるところが分かれば、誰が部落出身者なのかだいたい分かってしまいます。つまりは、差別発言が差別を広めるというよりは、同和研修でどこが同和地区なのか、知りたくもなかったことを知ってしまう、ということがあります。このA社にしても、以前から社長を「同和問題推進委員長」として同和研修を行っていたところです。
また、「○○は広い地域を示すもので、部落のことを指して言ったのではない。」というFさんの弁解についても分かりにくいと思いますので解説しておきます。鳥取県に限らず他県にも共通することだと思いますが、地名が即座に同和地区を指すとは限りません。同じ○○でも西○○、東○○、○○△丁目といった具合に分かれていて、その一部が同和地区であるということがよくあるからです。
いずれにしても、Fさんに悪気があったとは到底考えられないのですが、「裏にある意識」や「ニュアンス」を問題とされて差別者にされてしまいました。
ちなみにこの一件のあと、この企業は同企連に加入し、全社で同和研修を徹底して行うようになりましたということです。

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悪意のない発言でも差別者にされる

全国的にもそうですが、鳥取県でも部落問題はあまり大っぴらに語られることではありません。その理由として、「部落問題に下手に関わると差別者に仕立て上げられる」ということがあります。これはある意味事実です。
2003年4月1日の「市報くらよし」(倉吉市広報)の「糾弾会で思ったこと」という記事に興味深い記述がありました。以下、引用します。

部落差別は時には命を奪う。意図的に差別の型を使うことが許されないのは言うまでもありません。一方、差別の意図もなく、また直接「部落」の人を対象にしたわけでもなく使ってしまった場合(例えば遊び感覚)はどうでしょうか?この場合「悪気はなかったんだから…」あるいは「誰も傷ついていないんだし…」といった考え方ができるかも知れません。しかし、この考え方では見失われてしまうものが二つあります。それは差別を広める作用、もう一つは差別をなくしたいという願い。意図がないから差別に当たらないとはなりません。

刑法の侮辱罪や名誉毀損罪には過失犯は当てはまらないので、悪気がない人を罰することはできません。また、親告罪なので誰も傷ついていない場合は事件として成立しません。なので、完全に法を逸脱した考えです。
また、「差別をなくしたいという願い」が欠けていると差別に当たるようです。「差別を広める作用」については、次回で取り上げます。
そして、記事はさらにこう続きます。

私は「部落」に生まれたわけではありません。だから「部落に生まれた者の気持ちがわかるか」と問われれば、究極のところ「わからない」としか答えられません。「自分が言われてイヤなことは他人にも言わない」が当てはまらないのです。

これはある意味殺し文句です。
ただ、これは強調しておきたいことですが、私の実感として部落に生まれたかどうかで意識が大きく違うということはありません。同じ人間なのだから当然のことです。つまらないことで「差別だ」と言いがかりをつける人はごく一部で、大部分はそういう人を「頭のおかしい人」と見なしているのが実際のところです(と、私は思います)。
さて、それでは悪意なく発言したことで差別者に仕立て上げられてしまった事例というのはあるのでしょうか?次回は平成12年5月に鳥取県が出した文書に書かれた事例を紹介します。

「なぜ、部落差別だけを大きく取り上げるのか」は差別的な意見?

以下は平成11年8月6日に東郷町(現 湯梨浜町)公民館で行われた社会同和教育熟年指導者養成講座の資料です。

この講座のねらい
同和問題を学習する手法に参加型学習を取り入れ習得し、地域で実践しながら個々の体験を発言できる力を要請することをねらいに企画しました。また、自分自身が高齢者だという気持ちを持つ方はほとんどいらっしゃいませんでしたが、同和問題の関連を意識するために「高齢者問題と同和問題」の分科会も設定しました。
ア 講座と演習「これからの啓発に求められる手法―参加型学習―」
講師 鳥取県人権文化センター専任研究員 ■■■■ さん
○講演
(1)人権文化を育むために
 ①人権文化の社会とは、人権意識、人権感覚にあふれた人々で、地域が満たされ、人権を尊重する心や態度が日常生活の隅々まで行き渡るような社会
 ②人権文化をはぐくむための2つのアプローチ
  ・人権の視点から新しい価値観の創造=「差別の文化」を弱める
  ・人権のための新しい社会的ネットワークを育てる
(2)体験的参加学習を活用した人権学習
 ①体験的参加型学習は、学習者が主人公となる学習
 ②めざすもの
  ・人権のための基本的技能習得訓練の場
  ・鋭い人権感覚を養う「気づき」の場
  ・人権文化の町づくりへの参画、行動へ
○演習
(1)アイスブレイキング
  輪になって座る―→人権肩たたき、4つのコーナー、ふりかえり、自己紹介ゲーム、グループ分け
(2)文章完成法、フォトランゲージ
イ 分科会
第1分科会
演習「参加型で学ぶ同和教育」
地域でよく聞かれる差別的な意見にどう答えるかグループごとに討議していただきました。
討議の一例
テーマ「なぜ、部落差別だけを大きく取り上げるのか」
原因・背景
 ねたみ意識……同和対策事業に対する地区外のねたみを取り除く心情的な教育は不足していた。
 おしつけの同和教育……受身の学習で、自分の問題としてとらえられていなかった。
 学習会のマンネリ化……もういい
 長期的なものとして、条例を具体化する。
対策
 心の壁を取り除く……参加型学習
 「部落差別・同和問題」と他の差別とのちがいを明らかにする。
 同和問題を核として、自分とのかかわりにつなげる。
ウ 第2分科会
講演「高齢者問題と同和教育」
鳥取県社会同和教育指導委員■■■さん
意識調査結果を分析したところ、人権意識の低さ・差別の自由がありすぎる今の県民意識の現状が分かったそうです。高齢者の人権の現状と課題・「国際障害者年は地域のあり方についてのすべての住民参加による議論から構成されることを求めていること」など国際高齢者年の趣旨について教えていただきました。人権問題を自分自身の問題とするためには生命の感受性を大切にしていくことが大切になってくるということを御自身の体験も交えながら話していただきました。
(4)受講生の声
ア 今日、私がうれしかったのは……?
 ・体験的参加学習とは、その意義とはという疑問をもってきたが、少し理解できたように思ったこと。
 ・志を同じくする方と話せ、誰も苦労なさっていることがわかったこと。
 ・午後の講演が素晴らしかった。特に水平者宣言の1節についてと先生の人間としての生き方・考え方に共鳴しました。
 ・参加型学習によって受身ではなく少しでも仲間(グループ)のなかで自分の思いが言えたこと。
イ これから私が実行しようと決めたことは……?
 ・差別への気づき
 ・自分の中に気づかない固定観念がここまであったことに気づいた
 ・本気で学習する気になった。
 ・小地域懇談会・座談会で参加型学習をしていきたい。
 ・多くの人間と触れ合って、人間らしく生きる姿勢を共に探っていきたい。
ウ 気づいたこと・考えたこと。書いておきたいこと
 ・人に学ぶことが多いこと、大切なことに気づきました。
 ・同じ熟年といっても直接同和教育に携わっていない人もたくさんある。基本的な考え方にも大きな違いがある。このような集団でいずれも和気あいあいと話していく中で自分の意識を変えていく場にしたい。
 ・固定観念(思い込み)の払拭を取り上げることが部落差別を考える一方法であり―→自分との関係として考えられる。
 ・①心の壁を取り除くこと②テーマに迫る③ふりかえるというプログラムを考えることが大切であると思った。
 ・国際的にも同和問題の現実を深めながら行動していきたいと思います。
 ・固定観念による偏見の打破をしていきたい。
(5)まとめ
この研修に参加して、面識もない他市町村の方と知り合いになり気分がほぐれてよかったです。
参加型学習の手法を学習させていただき、その要領がわかりはじめました。講演もよいですが、受講生が相互の幅広い経験を出し合えるこの手法は素晴らしいと思いました。今後、自分の地域でも取り入れていきたいと思います。
国内はもちろん国際的な幅広い内容も視野に入れた内容に触れることができました。自分自身を含めて多くの人は、固定観念・偏見をもっています。柔軟な考えをし、間違った観念を打破していきたいです。自分の価値基準を見直す作業が苦痛ではありませんでした。他人の心の痛みがわかるような自分でありたいと思いました。

「地区進出学習会」の実態とは

鳥取県では「地区進出学習会」(学習会)が行われる地域があります。学習会は、かつては同和地区が経済的に低位にあったことに由来する学力の格差を解消するため、学力保障のために始められたものです。もちろん、参加するのは同和地区の子供達です。
学習会は校区に同和地区を有するいわゆる「有地区校」で行われるわけですが、全ての有地区校で行われているわけではなく、地域により取組みに差があります。
以前、智頭町の砂丘1号さんからこのようなコメントを頂きました。

もちろん学習会はありました。内容は確か国語と算数のドリルだったと記憶してます。
私は関西から転入してきた(父親の実家が智頭町)ので、学習塾の感覚で参加してたのですが実際は全く違いましたねえ(笑)
高学年になるとだんだん同和色が強くなっていき参加するのも嫌になってきましたが先生に叱られるのでしぶしぶ…

少なくとも1990年代、いくつかの地域の学習会の実態はおおよそこのようなものです。子供の頃鳥取市で学習会に参加した方からお話を聞くことができました。

― 学習会への参加は強制だったのか?
「ああ、強制強制。」
― 学習の内容は?
「国語や算数とかもやったけれど、児童館に行って、部落差別の学習をしたりとか、ここまでが地区で、ここからが境界だというようなことを教えられた。」
― 立場宣言は?
「それも強制。あの時は泣きそうだったし、泣いている人もいた。」
― それは毎年のことだったのか?
「兄弟もやったし、毎年やってたんだろう。」
― 後でわだかまりはなかったのか?
「そういうことがあって中学生くらいの頃まではずっと後ろめたい気分でいた。だけど、地区外の友達はずっと普通に付き合ってくれている。結婚だとか、職場でのけ者にされたりとか差別はあるけれども、一方で地区の方から壁を作っているというのはあると思う。」

地区学習会の内容は地域差はありますが、普通の教科が3分の1で、残りが部落問題学習というのがおおよその実態でした。それも、低学年はほとんどが普通の教科で、高学年になればほとんどが部落問題学習となります。その内容は、部落差別や解放運動の歴史、狭山闘争に関することも含みます。
地域によっては、かなり低学年からも人権や部落問題学習が行われいたようです。以下は1993年の文集から引用したもので、船岡町(現在は合併により八頭町となっている)の小学1年女子児童の作文です。

 わたしは、がくしゅうかいを見て、みんな
ががんばっているなあとおもいました。へや
の中は、すごくしずかで、びっくりてしま
いました。みんなががんばっていたから、
わたしもやりたくなりました。
 なぜ、がくしゅうかいをするのか、おしえ
てくれました。がくしゅうかいでは人をた
いせつにするべんきょうをしているのだそう
です。
 とても、たいせつなべんきょうだとおもい
まる。わたしも、しっかりべんきょうしたい
です。

以下は同じ文集の男子児童の作文です。地名は伏せてあります。具体的に自分の部落が被差別部落であるということを早くから教えていることが分かります。

 昔の、■■■■の人はそんなにいじめられたとは
しりませんでした、
 今は、みんながあんまりいじめなくなったので昔と
今をくらべたら平和です。みんな■■の人たちと仲良
くなっています。今はそのぶらくも仲よくしていま
す。
 ぼくは同じ船岡町の■■■■なのになんで、そん
なことをいうんだろうと思いました。

現在では、こういった学習会への参加を拒否する保護者も出始め、以前のように全員が強制参加という状態ではなくなってきているという声が聞かれます。

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県内の部落差別のほとんどは落書き

以下は鳥取県人権局の文書から作成したものです。なお、「差別した者等」「差別を受けた者」を記載した列がありましたが、いずれも「不明」または空欄でした。

平成17年度県内の同和問題等に係る差別事象(県報告分)

分類 事象名 発生
年月日
発生地 事象の内容 県が
報告を
受けた日
落書き 1 JR米子駅男子トイレの差別落書き H17.5.3 米子市 JR米子駅男子トイレ(大便用)の付け棚上面に「××××(電話番号)柴チョーセン殺せ」と黒マジックで書かれていた。 H17.5.3
2 JR智頭駅跨線橋及び男子トイレの落書き H17.9.13 智頭町 JR智頭駅跨線橋及び男子トイレに「外人使うな、外人使うな 会前 法は被害者家族が参加して作ろう 次 法ム省民営」と書かれていた。 H17.10.3
3 幸町街路灯及び電柱の差別落書き H16.1.20 鳥取市 黄色のスプレーで街路灯に「えた」、電柱に「○○」(人名)と書かれていた。 H18.3.10
4 津ノ井駅トイレに差別落書き H16.6.23 鳥取市 駅男子トイレの大便のドアの裏に落書き。「エッタはドロボウより悪い○をころせ」※○は個人名らしき内容 H18.3.10
5 カラオケボックスでの差別落書き H16.12.1 鳥取市 湖山のカラオケボックスのトイレに「エタ」と落書きがあった。 H18.3.10
6 沢井出公園(鉄道記念公園)便所差別落書き H17.11.25 鳥取市 公園の男子トイレ、女子トイレに「エタ」「四」と落書きあり。 H18.3.10
7 沢井出公園(鉄道記念公園)便所差別落書き H17.11.29 鳥取市 公園の男子トイレ、女子トイレに「エタ」「四」と落書きあり。 H18.3.10
8 沢井出公園(鉄道記念公園)便所差別落書き H17.11.30 鳥取市 公園の男子トイレ、女子トイレに「エタ」「四」と落書きあり。 H18.3.10
9 沢井出公園(鉄道記念公園)便所差別落書き H17.12.1 鳥取市 公園の男子トイレ、女子トイレに「エタ」「四」と落書きあり。 H18.3.10
10 鳥取県立鳥取商業高等学校における差別落書き H17.5.27 鳥取県立鳥取商業高等学校 校舎内に「えた」と鉛筆書き H18.3.10
11 鳥取県立鳥取商業高等学校における差別落書き H17.5.27 鳥取県立鳥取商業高等学校 校舎内に「えた」、「ちく」と鉛筆書き H18.3.10
12 鳥取県立鳥取商業高等学校における差別落書き H17.5.30 鳥取県立鳥取商業高等学校 校舎内に「えた」と鉛筆書き H18.3.10
13 鳥取県立鳥取商業高等学校における差別落書き H17.6.10 鳥取県立鳥取商業高等学校 校舎内に「えた」とシャープペンで記入後消去した痕跡あり H18.3.10
14 鳥取県立鳥取商業高等学校における差別落書き H17.6.25 鳥取県立鳥取商業高等学校 校舎内に「死ネ部落民学校祭ニ出テクンナ」と水性マーカー黒で記入 H18.3.10
15 東郷羽合臨海公園差別落書き H18.3.11 湯梨浜町 東郷羽合臨海公園宇野駐車場に「えた」「ヒにん」「死ね」と落書きがあった H18.3.17
投書 1 鳥取県立倉吉体育文化会館における差別メモ H17.8.27 倉吉市 差別メモ「私は痛いめに合った。こんな事をするので、間違い事が起こりやすい。(同和の人間は汚い。) H17.9.5
その他 1 電話による同和地区出身の聞き合わせ H17.5.26 鳥取県東京事務所 鳥取県職員に同和地区出身者がいることを電話で問うた聞き合わせ H17.5.26
2 社員研修会不適切感想文 H15.5.30 鳥取市 新入社員研修会の終了後に提出された感想文の中に、差別的な内容のものがあった。「同和地区の人は性格の汚い人、根性の悪い人が多く・・・・・」 H18.3.10

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[読み物]学校における差別事象に係る鳥取県教育委員会の見解について(5/5)

前回からのつづきです。
5 保護者、地域、関係機関等との連携
子どもたちの意識の形成過程において、学校教育の及ぼす影響は極めて大きいものであるが、保護者の意識や考え方も児童生徒に大きく影響する。同和教育の進展に伴い、保護者啓発も年々充実してきており、PTA同和教育推進部を中心とする研修が活発になってきている。さらに、同和教育を通して子どもたちに学ぶ親も増えてきた。
最近では、同和問題について学校で教わる前にすでに知っている子どもはほとんどなく、学校での学習を通して知る場合が大部分である。保護者から聞いている内容も、被差別部落の起こりを正しく教えてもらったり、自分と差別との関わりを自覚したりするなど、子どもたちへのよい影響が見られる。また、子どもたち自身が、たとえ誤ったことを聞いても、それを鵜呑みにせず、自分でそれを正していける人権感覚も育ってきている。
しかし、「子は親を映す鏡である」といわれるが、今回の事象に関係した生徒の保護者の中には、部落差別解消への強い思いや姿勢が感じられず、むしろ及び腰で、「寝た子を起こすな」といった考えの人があった。また、PTA同和教育推進部員を引き受け、活動に積極的に関わっていこうとしたが、学習して学んだことがきちんと子どもに伝わっていなかった人もあった。事象を契機に、多く保護者から、「これまで同和問題について親子で話し合うこともあったが、表面的な話で終わってしまい、しっかり話きれていない部分もあったと思う。今回のこのことをきっかけに、親子で乱合いを深めていきたいと思う。」という意識の変容がみられた。
現在、全ての学校で公開学習や研修会が行われているが、参加率は決して高いとはえない。これは、学校と保護者・地域との結びつきの弱さがもたらしたものである。なお、今回の事象を通じてPTAにおける活動を見直し、研修会や懇談会に例年以上の参加者を得たり、来年度、専門部としてのPTA同和教育推進部を設置したりしようという機運の高まりも見られる学校もある。
今後は、PTAにおける同和教育を、社会同和教育の一部と位置づけ、保護者や地域を巻き込んだ幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び盲・聾・用語学校の同和教育の公開学習を一層促進していきたいと考えている。
同時に、学校はもっと積極的に家庭や地域に出かけ、子どもや保護者・地域の思いや願いを受け止め、保護者や地域の関係者との信頼関係の構築に努めることも重要である。

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