ひとつの社会実験、また現実を突きつける方法として、さまざまな意味合いで公開した住所でポン!(Torをお使いの方はこちらをどうぞ)ですが、やはりというべきか通報されまくっています。要はただの電話帳なのですが、個人情報保護ということが叫ばれて久しい今ではこれを「犯罪」と思い込んでいる人が多いようです。じゃあ、どの法律のどの条文により犯罪なのかと聞いても、だれも答えられません。何となく「ネットに本名住所を載せてはいけません」という空気が、ありもしない犯罪が存在するような錯覚を起こさせているのでしょう。
ネットも携帯電話もなかった頃といえば、遠くの人との交流手段は手紙か固定電話でした。家の電話機の横には必ず分厚い電話帳があり、知り合いや親戚の電話番号を調べてかけるというのが当たり前のことでした。電話帳にはもちろん個人の住所と電話番号が羅列してあるのですが、それを見て「個人情報だ」とわざわざ特別視する人もいませんでした。今でも特に年配の人の感覚はそうではないかと思います。
今でも電話帳というのは人と人との交流のための1つのツールであるはずなのですが、いつしかストーカーや詐欺や悪徳商法など、悪用方法だけが強調されるようになってしまいました。だから、固定電話というものに馴染みが薄いネット世代にとっては「悪用以外に使えないもの」ということになってしまうのでしょう。本来は、古い友人と連絡をとったり、遠くの親戚を気遣う用途にも使えます。迷惑にならない範囲で政治活動や商売にも使えます。そうしないと政治や経済が回らないですから。
確かに悪用することもできる。では、電話帳をネットに転載してはいけない根拠というのは何でしょうか?実際は、下に載せているとおり電話帳を電子化して検索できるようにしたソフトが多数売られています。これがNTTの正式な許可を得たものかどうかと言えば、そうではなありません。電話帳の内容は著作物ではなく情報の羅列に過ぎないからです。たとえば、人名や団体名を様々な出版物から収集して、新たにリストを作って出版することに何ら制約がないのと同じです。
実際、著作権法にも個人情報保護法にも違反していません。倫理的にどうかと問われても、例えば先の電話帳ソフトとの違いは何でしょうか。最大の違いは、「自分の情報がある」ということが簡単に確認できるかどうかでしょう。電話帳ソフトはそれなりの値段がするので、わざわざそれを買った人が「何で自分の名前が載っているんだ!」とソフトメーカーに苦情を言うことはめったにありません。ソフトメーカーは一応「個人情報削除要請の窓口」というのを用意していますが、そもそも多数のメーカーのソフトに自分の情報が確かに掲載されているか確認することが難しいわけで、形式だけのものです。「うちは個人情報保護をしています」という体裁だけ整えるために。
タイトルに「衆愚政治」と書きましたが、日本の個人情報保護制度にはそのような面があります。以下は、Wikipediaからの引用です。
また有権者がおのおののエゴイズムを追求して意思決定する政治状況を指す。エゴイズムは自己の積極的利益の追及とは限らず、恐怖からの逃避、困難や不快さの回避や意図的な無視、他人まかせの機会主義、課題の先延ばしなどを含む。
判断力の乏しい民が意思決定に参加することで、議論が停滞したり、扇動者の詭弁に誘導されて誤った意思決定をおこない、誤った政策執行に至る場合などをさす。また知的訓練を受けた僭主による利益誘導や、地縁・血縁からくる心理的な同調、刹那的で深い考えにもとづかない怒りや恐怖、嫉妬、見せかけの正しさや大義、あるいは利己的な欲求などさまざまな誘引に導かれ意思決定をおこなうことで、コミュニティ全体が不利益をこうむる政治状況をさす。また場の空気を忖度することで構成員の誰もが望んでいないことや、誰もが不可能だと考えていることを合意することがある(アビリーンのパラドックス)。
本来の目的を離れて法律が一人歩きして、何ら深い思慮もなく「ネットに個人情報を載せるのは危険だ」という空気が広がって、たかが電話帳で大騒ぎするような国民を生み出してしまったわけです。電話帳ソフトを買ったり、国立国会図書館で過去の電話帳を漁ったりする人は、ネットユーザーより安全だという保障なんてどこにもないし、逆に特別にネットユーザーが危険だという根拠もどこにもないわけですが。
確かに最近では亀岡の交通事故や大津のいじめ自殺事件で関係者の本名住所がネットで晒されて、大津の教育長が襲われるという事件がありましたが、個人特定のために紙の電話帳などのリアルなツールが活用されておりネットは関係ありません。それにしても「アホにおもちゃをもたせると危険」とでも言うかのように隠してしまうのは愚民化政策に他ならず、まっとうな情報の利用方法を推進するべきではないでしょうか。ただ個人の本名住所を晒すのでも、「皆の衆、こいつが犯人だから攻撃しろ!」とけしかけるのと、被害者の支援や、逆に真実を究明して公正な裁判や冤罪の防止に活用しようというのでは、天と地の開きがあります。
それでも住所でポン!に納得出来ない方は、国会議員に個人情報保護法改正を訴えるのもいいでしょう。
このブログを訪れ、わざわざ文章をお読み下さった方は、大阪における衆愚政治の事例もご覧頂ければ幸いです。