7月10日から8月9日は部落解放月間でして、同和と関わりの深い自治体では、毎年講演会などのイベントが開催されます。「土地差別」とか「福島差別」というのを強調している、近畿大学の奥田均教授の講演会が、去る7月23日に鳥取市でありましたので、行ってきました。テーマは個人情報保護と身元調査です。
その中で、質問タイムがありまして、このようなやりとりがありました。
会場からの質問 先日、国立国会図書館のホームページで私の出身地名で検索したら、部落問題についての本や雑誌が多く出てきた。私の出身地を知る人にはそこが部落と分かってしまうので、不安や。図書館に言っても何もしてくれへん。
奥田さんの答え 図書館が、そういう意味では地名を言うとそれに関する本を紹介してくれる。ところが、その地名を言うと結構部落問題に関する本が出てくる。そうすると、自分が言った地名が部落だと分かるんじゃないかというご心配であります。
まあ、そういう意味では厳密にはそんな風に悪意を持って理解する人がいてないとも限りません。ただし、取り組みのおおきな目標は、たとえ自分の生まれ育ったところが部落だと分かっても差別されないような社会を作るということが目標であります。部落を隠したりすることが、差別からの解放ではない。部落だと分かっても差別されない社会を作ろう。家族に障害者がおっても障害者差別を受けないような社会をつくろう。こういうことであります。
そういう意味では、このようなことを悪用する人がいてるということはけしからんわけであります。このことをきっかけに差別行為に及んだ場合には私はしっかりと差別禁止法で取り締まらなければいけない気がします。
部落問題に関して、同和とか部落とかいう言葉は使用しないで人間形成、社会教育といった基本的な取り組みを発展させたらいいのではないか。社会教育、自由平等の基本的な立場というか人間形成を高めていくというのは全く賛成であります。問題は、同和とか部落という言葉を使うかどうかとは別の議論ではないかということであります。部落ということで差別があるわけですから、同和と呼ぼうが部落と呼ぼうが大差ないわけでありますけど、この差別をどう呼ぶかというネーミングがいるわけで、そういう意味では部落差別が現にある以上、同和問題、部落問題という言い方は社会現象を説明する言わばネーミングとしてやっぱりいい悪いは別に必要。そうしないとこの問題をうまく伝えたり、お互いに議論をする共通の土壌が出来ないのではないかと思います。
子供の結婚の際に部落出身ということを告げたほうがよいのか、理解のない人に告げると避けられてしまうのではと思うので、当人同士が知っていればよいのではないのか、相手の家のお婆さんにまで伝える必要はないのではないか。そういう質問がある。
私は自由だと思いますね。言わなければいけないわけではないんです。言おうと思ったら言えばいい、部落出身者は部落出身者だと言わなければ騙したことになるなんてことはないわけで、私は大阪府八尾市の住民ですなんて言わなくてもいいし、私の両親は奈良県の出身ですなんて言わなくていいし、言う言わないは本人の自由であります。自分のことを理解してもらうのに自分の何について話すのかは全く自由です。
基本は結婚は両性の合意ですからね。夫や妻になる人に言えばいい。お爺ちゃんお婆ちゃんや親戚まわっていとこ連中にまで言う必要はない。ただし、尋ねられたら答えたらいいし、話の中でそういうことになったら趣味を伝えてもいいし好きな野球の球団を言ってもいいし、卒業した学校を言ってもいいし、それは別に知りたいと思って尋ねられるんだから。その尋ねられる理由に不信感を持ったなら、なんでそんなことをお尋ねになるんですかと聞いてから答えたらいい。
部落の出身ということを少なくとも自分自身が自覚している。そのことについて自分の言わば大切な一面だということがもし心の中にあるんなら自分と人生を共にする人に言うのがある意味自然かも知れませんけど、別にお爺ちゃんお婆ちゃんと人生を共にするわけではありませんので、そこまではあえて必要ではないんでないのかなと思います。そして、お父さんやお母さんにまで言っておいたほうがいいのかは、彼や彼女の問題として二人で相談されて対処されたらいいのではないか。
その時はもう個人の問題ではなくて、結婚する二人の問題になってくるわけですから、子供にはどう伝えるのかと同じように、両親に言うとこかと二人で相談されたらよいのではないかと思います。
あくまで、部落を隠すことが目的ではないということで、なかなか興味深いやりとりでした。
もちろん、質問したのは私なのですが。
ちなみに、個人情報保護がテーマだったので、「住所でポン!」についてどう思うかも聞いてみましたが、奥田氏をはじめ会場の誰も「住所でポン!」の存在を知りませんでした。世間の認識は、まあこんなもんでしょう。