昭和43年第373号および第777号民事局長通達

いわゆる「部落民」を特定する手段に使われたとして、かつて問題になった「壬申戸籍」というものがあります。これは正式には「明治五年式戸籍」と呼ばれるもので、近代の日本で最初につくられた戸籍です。当時は既に解放令後で身分制度は撤廃されていたはずなのですが、実際は戸籍の記載内容について地方の役所までは徹底されず、身分や犯罪歴等が記載されることがありました。
同和対策事業特別措置法が公布される1年前の昭和43年、全国の法務局を通じて市区町村に壬申戸籍の閲覧を禁止するよう通達が出されます。この通達は法的根拠のない緊急措置に近いものでしたが、現在でも壬申戸籍はこの通達どおりの取扱いがなされています。現在、壬申戸籍は既に破棄されているか、市町村か法務局に厳重に封印され、事実上使用することはできません。これが意味することは戸籍から歴史的な意味での部落民が明らかになることはあり得ないということです。
当時の通達を入手しましたので、掲載します。なお、原文は縦書きですので「左記」は「下記」に「右記」は「上記」に読み替えてください。

昭和四三年三月四日付民事甲第三七三号民事局長通達
明治五年式戸籍(壬申戸籍)の閲覧等については、本年一月十一日付民事甲第一〇号当職通達をもつて指示したところであるが、今後は左記の取扱いによることとしたので、管内支局長及び市区町村長にこの旨周知方取り計らわれたい。


(一)明治五年式戸籍については、閲覧の請求に応じないこと。
(二)右の戸籍についての謄本、抄本又は記載事項証明書は、現行の戸籍記載事項に相当する事項についてのみ作成すること。

昭和四三年三月二九日付民事甲第七七七号民事局長通達
明治五年式戸籍(壬申戸籍)の保存等について
標記戸籍の取り扱いについては、その保管利用状況を調査して対策をたてるまでの間のとりあえずの暫定措置として、本年一月十日付民事甲第一八九号及び翌十一日付民事甲第一〇号並びに同年三月四日付民事甲第三七三号をもつて通達したのであるが、その対策を検討した結果、今後は左記によることとしたから、その趣旨を徹底せしめ、取扱いに遺憾のないよう関係市町村長に周知方取り計らわれたい。


(一)市町村において、その利用状況の実情から明治五年式戸籍を廃棄してさしつかえないものとして廃棄申請があつた場合には、従前の取扱いに従つてこれを許可してさしつかえない。
(二)廃棄の許可をした右戸籍(従前許可したものを含む。)について市町村においてこれを保存する必要があると認めるときは、それが外部に流出する等により弊害を生ずることの絶対に生じないよう保存方法につき充分な配慮をする必要があるので、関係市町村と慎重に協議し、市町村においてこれを整理して厳重に包装封印して保管するものとする。
なお、右の協議の結果市町村において保管することが適当でない場合には、法務局又は地方法務局において右と同様の方法により保管することとするが、施設の実情に応じ、その所在を明らかにして支局又は出張所に分散保管することとしてさしつかえない。
(三)市町村において、その利用状況から廃棄申請を相当としない右の戸籍については、本年三月四日付当職通達による取扱いを今後とも一層厳守するとともに、謄抄本等を作成するため使用する場合以外は、包装封印して保管する等の措置をして、その記載内容が一般外部に漏れることのないよう、厳重に市町村に留意せしめるものとする。

コメント

コメントを受け付けておりません。