現在、鳥取県を相手として行っている情報公開裁判について解説をしていますが、私は弁護士ではないため、法律的な知識については保証できません。ご質問、ご要望、ご指摘はコメント欄でお願いいたします。素朴な質問は歓迎します。
今回開示を求めている「加点研修の実績報告書」がどういった意味を持つものなのか、県外の方や自治体の入札制度をよく知らない方(実のところ私もそうなのですが)にはなかなか分かりにくいと思いますので、基本的なことから説明します。
県が公共工事や物品を発注する業者は、通常は競争入札によって決めます。競争入札は県が発注しようとしている仕事に対して、複数の業者に請負金額などの条件を出させて、県にとってもっとも有利な条件を提示した業者に仕事を発注するしくみです。競争入札にはどのような業者でも参加できるというわけではなく、例えば指名競争入札では県が指名した業者だけが参加することができますし、一般競争入札の場合は事前に県が提示した条件を満たす業者だけが参加することができます。指名理由や入札の条件、指名した業者名や落札業者、落札金額といった情報は「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」により公開しなければならないことになっています。
入札に参加する条件として、工事を行うために必要な免許や資格、営業許可といったものが当然必要になります。それ以外の条件は、鳥取県の場合はランク分けによります。ランク分けは工事の種類によって決められていまて、例えば土木工事の場合はA,B,C,Dの4ランクおよび「ランク外」があります。入札への参加条件としてランクが限定されることがあり、一般にはAに近いランクであるほど、発注額の大きな工事を受注しやすくなります。
ランク分けの基準、また指名競争入札で業者を指名する基準は原則として点数制になっています。例えば、過去の工事成績がよければそれだけ点数が加点されます。また、工事成績が悪かったり、違法な事をすれば当然減点されます。また、県が認定した団体が主催する研修に参加した場合も加点対象となります。研修の内容は施工技術や会社の経営に関するもの、そして鳥取県の特徴として人権研修、同和研修があります。原則として点数の高い業者ほど上のランクに置かれ、指名競争入札では点数の高い業者が優先して指名されます(なお、指名競争入札と一般競争入札では加点の基準が違います)。そのため、公共事業で食いつないでいる業者は1点でも点数を上げるために必死です。
「加点研修の実績報告書」の加点研修というのは、上記の研修のことです。県が認定する研修の中に、部落解放鳥取県企業連合会(企業連)という団体が主催する同和研修があり、その研修の実績報告書を開示請求したところ、参加者や企業の名前が黒塗りされていたため、その部分を公開するように求めたのが今回の裁判です。
あえてこの文書の全面公開を求める大きな理由は2つあります。
1つめは、この加点研修で受けられる加点が、企業連の会員企業だけが受けられる特別なものだからです。単に研修には企業連の会員しか参加できないだけでなく、この研修により文字通り「特別に加点」されるのです。例えば、企業連の会員でなければ30点までしか加点されないところを33点まで加点されたり、10点が限度のところを15点まで加点されるという規則になっています(もっとあからさまな優遇もあるのですが、それについては次回解説します)。
2つめは、この文書を含め、企業連と関係する企業が明らかになるような情報が不自然にシャットアウトされていることです。例えば除雪作業やボランティアなど地域に貢献するような行為を行った企業は指名競争入札の基準で加点対象となり、なおかつ総合事務所(県内各所にある県庁の出張所みたいなところ)の閲覧室に企業名が掲示されるます。地域に貢献する行為の具体例として「同和問題への取り組み」があり、それは企業連の研修に参加することを意味するのですが、同和問題への取り組みをおこなった企業だけはなぜか掲示されません。中部総合事務所ではそのことが規則として定められているのですが、他の総合事務所では規則も何もないまま、実態として掲示していませんでした。そのため、そういった種類の情報の1つとして、まずは加点研修の参加者を公開させようということです。この情報が公開されてしまえば、他の同種の情報についても県が公開を拒む理由がなくなります。
鳥取県内には企業連以外にも「鳥取県建設業協会」といった事業者団体がありますが、そちらに関しては上記のような実態はありません。つまり、数ある事業者団体の中で企業連だけが特別だということです。