平成12年5月に鳥取県より発行された「事業所における同和問題・人権問題の取り組み方」より、ある全国的に有名なサービス業の事業所で起こった「差別事象」を紹介します。
○ A社支社従業員Bさんは入社直後から、自分が属するグループの長のCさんは同和地区出身者であることを聞かされていました。そして自分も他の人にCさんは同和地区出身者であると発言していました。
Bさんは上司であるCさんと仕事上の関係があまりうまくいっておらず、その理由は自分がCさんとは違って同和地区出身者でないためと考えていたところから、Cさんのグループとは別のグループに所属換えをしてほしいと発言したものです。
○ 会社の記念式典に出席したときの雑談の中でFさんは、それに出席していたKさんのことを話題にし、「○○出身のMさんも来ていた」と発言しました。それを聞いたCさんがその発言の差別性を指摘したところ、「○○は広い地域を示すもので、部落のことを指して言ったのではない。『あの人は△△出身だ』という言い方は、他の人も言っている」と発言しました。
○ Cさんは、会社(管理職)にも「人間として大切なことをいうのだが……」として、この差別事象の存在を報告していました。それを受けて支社は、事情聴取と関係者による話し合いの機会をもちました。しかし、Cさんの告発内容に対して、Bさん、Fさんがほぼ全面的に否認したため、事実解明をしないまま放置状態となっていました。Cさんの訴えを受けても、人間関係のトラブルと判断し、然るべき対応をとらないまま、‘注意したので一段落した’と認識していたものです。
さて、なぜこの事例が差別事象になるのか、普通なら「誰が同和地区出身であるかどうかを明らかにした」と考えそうなところですが、この資料の解説は微妙にずれています。以下、解説部分を引用します。
A社においては、このような従業員どおしの会話の中で「○○さんは同和地区出身者」ということがとりざたされていました。そして、こうしたことを言っても差別する気持ちはなく、また、他の人も言っているので問題はないとの一般的意識がありました。
しかし、どういう場で「○○さんは同和地区出身者」という発言がされてきたかを確認した上で、その言葉の裏にある意識は何かを考えると、ことさら○○出身と区別して言う言葉の裏にあるのは「だから注意しなさい」等のニュアンスであったと発言した人が後に認めています。
A社では、そうした差別的意識に基づく発言を差別ととらえて対応することがなかったため、それが温存される結果となっていたものです。
「○○さんは同和地区出身者」という発言自体はあまり問題視していません。というもの、鳥取県においては「寝た子を起こす」であるとか「社会的立場の自覚を深める」という名目で、誰が部落出身か直接または間接的に明らかにされることがしばしばあるためです。学校教育の場では言うまでもないことですし、職場研修でも「村めぐり学習」のような実際に同和地区をまわる学習が行われます。それゆえ、住んでいるところが分かれば、誰が部落出身者なのかだいたい分かってしまいます。つまりは、差別発言が差別を広めるというよりは、同和研修でどこが同和地区なのか、知りたくもなかったことを知ってしまう、ということがあります。このA社にしても、以前から社長を「同和問題推進委員長」として同和研修を行っていたところです。
また、「○○は広い地域を示すもので、部落のことを指して言ったのではない。」というFさんの弁解についても分かりにくいと思いますので解説しておきます。鳥取県に限らず他県にも共通することだと思いますが、地名が即座に同和地区を指すとは限りません。同じ○○でも西○○、東○○、○○△丁目といった具合に分かれていて、その一部が同和地区であるということがよくあるからです。
いずれにしても、Fさんに悪気があったとは到底考えられないのですが、「裏にある意識」や「ニュアンス」を問題とされて差別者にされてしまいました。
ちなみにこの一件のあと、この企業は同企連に加入し、全社で同和研修を徹底して行うようになりましたということです。
それにしても、日ノ丸バスやJR西といい、この手の差別事象が以前から同和研修にとりくんでいる企業、しかも大手企業に多いのは単なる偶然でしょか…