上告受理申立て理由書

平成21年(行ノ)第1号 公文書不開示処分取消等請求上告受理申立て事件
第1  はじめに
1  事案の要旨
本件は申立人が鳥取県知事に対し、鳥取県情報公開条例(以下「本件条例」という)に基づき、部落解放同盟の関係団体である部落解放鳥取県企業連合会(以下「企業連」という)が行った、公共工事の指名競争入札に係る加点研修の実績報告書、受講者名簿(以下「本件文書」という)を開示請求したところ、鳥取県知事が受講者名、所属企業名等を開示しないとした処分が本件条例および憲法14条に違反するとして、処分の取消しと本件文書の全ての内容について開示処分の義務付けを求める事案である。
2  原判決の要旨
原判決は、本件文書の内容のうち、受講者の合否と役職は本件条例により開示するべき情報であるとして申立人の訴えを認めたが、受講者については同和地区出身者と認識されるおそれがあるため、個人の権利利益を侵害するおそれがあるとし、所属企業名については同和地区出身者が経営する企業と認識されるおそれがあり、法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある、なおかつ本件処分は門地による差別をしたものではないとして、申立人の訴えを却下したものである。
第2  理由要旨
原判決には、法人不利益情報(本件条例第9条2項3号のア)の解釈について過去の判例と相反する判断がある。また、判決について民事訴訟法247条の違反がある。また、同和地区出身者であると認識されるおそれを理由とした処分は本件条例第1条の趣旨に反し、明治4年太政官布告第448、449号に反するもので違法である。従って、民事訴訟法318条1項の上告受理申立ての理由に該当する。
(1) 過去の判例と相反する判断
 東京高等裁判所平成17年(行コ)第315号行政文書不開示決定取消請求控訴事件判決は法人不利益情報(本件条例第9条2項3号のア)について、利益を害するおそれが客観的に認められることが必要であり、かつ、利益を害されることの単なる可能性があるというだけでは足りず、利益を害されることの蓋然性が高いことが要求されるとしている。しかし、本件において原判決で示された証拠は、いずれも本件とは直接の関連性がないものである。推論された理由も、差別意識といった主観的なものである。事実関係については、むしろ蓋然性が低いことを示す証拠が存在している。
(2) 民事訴訟法247条の違反
 判決で本件文書に記載された受講者(以降「本件受講者」という)と受講者の所属企業の経営者(以降、本件受講者とあわせて「本件関係者」という)が同和地区出身者であるかどうか、本件受講者が部落解放同盟の支部員であるかどうかという重要な事実についての判断を避けたことは、事実についての判断の不備であり、違法である。
(3) 本件条例第1条の違反
 「同和地区出身者であると認識されるおそれ」は事実に反する風評であり、それを正さないまま処分理由としたことは、本件条例第1条にある県民への説明責任を放棄することであり、違法である。
(4) 明治4年太政官布告第448、449号の違反
 明治4年太政官布告第448、449号は現在でも法令として有効であるから、穢多非人等と関連性のある同和地区出身者という身分を理由とした本件処分は、穢多非人等の称えを蒸し返すもので違法である。

第3  過去の判例と相反する判断
(1) 本件条例第9条2項3号のア「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのあるもの」について、原判決では「受講者の所属」に係る情報は、受講者の所属企業である法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものに該当する(原判決10項12行目が引用する第1審判決10頁下4行目から2行目)としている。
(2) その理由を要約すると、企業連の会員企業が同和地区出身者により経営されている企業であると認識されるおそれがあるとした上で、「同和地区出身者により経営されている企業であると認識されるおそれがあるところ、同和地区出身者により経営されていると認識された企業は、他の企業から取引の相手方として選択することを忌避されるおそれがないとはいえない」とし、その理由について「落書きや結婚問題に関する意識から、同和地区出身者が経営する企業に対する差別意識を推論することが不合理なものとは言えない。」(原判決10頁の下6行目から11頁5行目)というものである。
(3) 本件条例について直接の判例はないが、本件条例と同様の趣旨の「行政の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)」第5条2号イに本件条例第9条2項3号のアと全く同じ文言がある。その一般的な解釈を示した最高裁判所判例はないが、東京高等裁判所平成17年(行コ)第315号行政文書不開示決定取消請求控訴事件判決(裁判所ウェブサイト”http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070621184133.pdf”の3頁下4行目から4頁7行目)はつぎのとおり解釈している。
(4) 「情報公開法5条2号イは、事業者情報のうち、公にすることにより、当該事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを不開示情報と定めているが、他方では、情報公開法は、行政文書を原則として開示しなければならないと定めていること(5条)に照らすと、利益侵害情報として不開示情報に当たるといえるためには、主観的に他人に知られたくない情報であるというだけでは足りず、情報を開示することにより、当該事業者の権利や、公正な競争関係における地位、ノウハウ、信用等の利益を害するおそれが客観的に認められることが必要であり、かつ、上記のおそれが客観的に認められるというためには、利益を害されることの単なる可能性があるというだけでは足りず、利益を害されることの蓋然性が高いことが要求されるというべきである。」
(5) 本件においては、企業が利益を害される証拠として示されているのは、部落差別に係る落書きや、結婚問題に関する意識調査の結果といった主観的で企業活動とは関係のないものばかりである。逆に事実関係については、鳥取県情報公開審議会の求めで鳥取県が企業連に対して確認し、過去にも事例が存在しないことが確認されているため(甲7の1号証4ページ17、18行目、下8、7行目、甲7の2号証1頁の事務局説明と、2頁9、10行目)、蓋然性が低いことは明らかである。従って原判決は東京高等裁判所判例の解釈による要件を満たしておらず、判例と相反する判断をしている。
第4  その他法令の解釈に関する重要な事項
1  民事訴訟法247条の違反
(1) 本件は行政事件訴訟法に基づいて提起されたものであるが、証拠調べや事実の判断については行政事件訴訟法の規定がないため、行政事件訴訟法第7条により、民事訴訟法に従って行われるべきものである。
(2) 原判決は「企業連の会員企業は、現実にそうであるか否かに関わらず、同和地区出身者により経営される企業であると認識されるおそれがあるところ」(原判決10頁下6行目から4行目)「現実にそうであるか否かに関わらず、同和地区出身者であると認識されるおそれがあって」(原判決10頁下10、9行目)と述べているが、「認識されるおそれ」は主観的な問題であって事実関係ではなく、同和地区出身者であるかどうかという点が事実関係である。
(3) また、本件受講者が同和地区出身者と認識されるおそれがあると判断される前提の1つである、本件受講者と部落解放同盟の支部員であることの関連性(原判決10頁12行目が引用している、第1審判決9頁12行目から22行目)について、申立人が否定し、相手方が申立人の主張を認めた(控訴理由書第1の第2段落、第2審被控訴人第1準備書面第1の1の(2))にも関わらず、原判決に記載されていない。
(4) 民事訴訟法247条は、判決に影響するような重要な事実についての判断そのものを避けることは認めていない。また、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して事実を判断しなければならないのであって、双方が認めている重要な事実を無視することも違法である。
(5) 申立人はそもそも誰が同和地区出身者かを判断することはできないと主張し(原判決8頁14行目が引用する第1審判決6頁下3行目から7頁3行目)ており、単に法令上のことだけでなく、控訴審においては実際に企業連の会員企業が役員や従業員を同和地区出身者と認識していたのかという点についても調査を試みたが(控訴理由書第1の第3段落)、事実関係が争点とされないので、非常にやりにくい状況であり、不公正な裁判を強いられた。
2  本件条例第1条の違反
(1) 本件条例第9条2項の各号には、公文書を開示しない条件が書かれているが、事実が存在せず、開示請求権を持つ鳥取県の住民等に認識されるというだけでは、条件に該当すると判断するべきではない。
(2) 本件条例第1条では、条例の目的の1つは「県の諸活動を県民に説明する責務を全う」することであるとしている。諸活動を県民に説明するということは、県民の認識と事実に相違があれば、事実関係について説明責任を果たさなければならないということである。県民が誤った認識を持つことが情報を開示しない理由とされるのであれば、県民が誤った認識を持っていたままの方が県にとっては都合がよいということになりかねず、本件条例の趣旨に反することである。
(3) 従って、県民の誤認識に基づくような理由は本件条例第9条2項の各号から排除すべきことであり、本件関係者が同和地区出身と認識されるおそれを理由として不開示処分をしたことは違法である。
3  明治4年太政官布告第448、449号の違反
(1) 行政処分において、利害関係者を同和地区出身者と認識されるおそれがあるとしたことは、明治4年太政官布告第448号「穢多非人等ノ称被廃候条自今身分職業共平民同様タルヘキ事」および、同第449号「府県 穢多非人等ノ称被廃候条一般民籍ニ編入シ身分職業共都テ同一ニ相成候様可取扱尤モ地租其外除クz・了斗茱睛㌶係・蓮外曺哨景・・・萃澗臑⊂覆慍鳥能仍・廖碧[畫棺饌茖矯・声・看・械械景如・駑・餡饋渊餞朸畭絅妊献織襯薀ぅ屮薀蝓肢“http://kindai.ndl.go.jp/BIImgFrame.php?JP_NUM=40022968&VOL_NUM=00006&KOMA=205&ITYPE=0”より。以降「太政官布告」という)の違反である。
(2) 旧憲法第76条1項は「法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス」としており、なおかつ太政官布告は旧憲法と矛盾しないため、当然効力を有する。太政官布告が旧憲法の下で特に見直されたことはなく、太政官布告は旧憲法が改正された後の現行憲法とも矛盾しないため、現在でも失効していないと解釈されるべきである(最高裁昭和36年7月19日大法廷判決刑集第15巻7号1106頁に明治六年太政官布告第六五号絞罪器械図式について同様の判例がある)。
(3) 原判決は同和地区出身者とは近世の被差別身分との系譜関係を持つ者のこと(原判決8頁14行目が引用する第1審判決6頁下3、2行目)という点について特に否定していないため、同和地区出身者は近世の被差別身分、つまりは穢多非人等と系譜関係を持つということになる。
(4) 結局のところ本件関係者について同和地区出身者と認識されるおそれがあるとしたことは、穢多非人等の称えを蒸し返すことであり、「穢多非人等ノ称」を廃止するとした太政官布告の違反である。
第5  結語
以上のとおり、原判決には過去の判例と相反する判断があり、法令の解釈に関する重要な事項を含んでいるので、上告受理申立てが上告審として受理されることを求める次第である。

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