同和地区実態把握等調査とは(4)

同和地区実態把握等調査には「被差別の状況」という核心迫る項目があります。これは世帯の住人全てに、同和地区住民であることを理由に差別を受けたことがあるかどうか尋ねるものです。被差別体験の基準ですが、手引書によれば「何をもって被差別体験とするかは面接対象者の考えによります」ということです。

全体では28.9%が差別を受けたことがあると回答しています。年代別では年齢が上がるほど増え、45~49歳では40%にのぼりますが、それより上の年代では割合はほとんど変わりません。

さて、部落差別で最後に残る最も深刻な問題とされる結婚差別ですが、どれだけの方が体験したと答えているのでしょうか。以下の表は被差別体験の有無と被差別体験の内容別割合から求めたものです。

結婚差別を体験した人の割合
15~19歳 0.08%
20~24歳 2.34%
25~29歳 7.66%
30~34歳 10.18%
35~39歳 14.54%
40~44歳 14.07%
45~49歳 13.7%
50~54歳 12.7%
55~59歳 8.78%
60~64歳 6.82%
65~69歳 3.82%
70~74歳 3.88%
75~79歳 3.89%
80~85歳 1.80%
85~ 1.46%

若い世代の割合が少ないのは、単に既婚者あるいは婚約の経験がある人の割合が少ないためと考えられますが、35歳代をピークに徐々に減少し、80歳以上では極端に少なくなっています。これは私の想像ですが、この世代では部落内や部落同士の見合い結婚が当たり前だったので、そもそも結婚でトラブルになること自体があまり起こりえなかったためと考えられます。

なお、この調査は「同和関係住民」を対象としているため、転出者については不明です。そもそも、転出者から「元同和関係住民」を探し出して調査することは不可能でしょう。

最後に人口流出の問題を採り上げておきます。県内の同和関係人口は平成12年の2万1818人から平成17年では2万237人に減っており、減少率は7.2%です。これは同時期の鳥取県全体の人口減少率1.0%に比べるとかなりの減少率です。同和地区は郊外や郡部に多いと言われます。しかし、鳥取県の郡部に限った人口減少率でさえ4.2%なので、さらにそれを上回っていることになります。「同和関係人口」=「同和地区人口」ではないのでいちがいには言えないのですが、同和地区の過疎化が進んでいることは間違いないようです。

さて、こういった実態調査は誰がどのように作っているのでしょうか?県内の教育関係者、行政関係者によれば鳥大の國歳眞臣名誉教授が旗振り役だと口をそろえて言います。つい先日、7月13日に鳥取市産業体育館で行われた第31回部落解放・人権西日本夏期講座では、國歳教授により同和地区の実態について全国的な調査の実施が必要という趣旨の講演が行われています。県の人権局によれば、同和地区実態把握等調査については特に彼がリーダーシップをとっているわけではないが、学識経験者として検討会に参加し、部落解放研究所などが加わって調査の内容を検討しているということでした。

同和地区実態把握等調査とは(3)

さて、この同和地区実態把握等調査の回収率ですが、88.4%となっています。これは一見に高い回収率に見えますが、国勢調査の未回収率が4.1%(全国)であるのと比べると、11.6%が未回収というのは低い回収率です。なお、最低限世帯員について「世帯主との続き柄」「年齢」「性別」が分かれば調査完了とされています。
対象世帯が調査に協力しないのはどのような場合でしょうか?「調査の手引き」には調査に非協力的な世帯への対処方法の筆頭に次のことが挙げられています。

(1) 対象世帯が、調査の対象となった経緯について疑問を抱いた場合
今回の調査は、市町が本年6月から実施した地区概況調査実施時に作成した世帯主名簿に記載された世帯を対象とするものですが、対象世帯(世帯員)の中にはどのような経緯で自分の世帯が対象となったのか疑問をいだく方がいると思います。
このような場合は、「市町が○○○○○の方法で世帯主名簿を作成しましたが、その名簿に基づき今回の調査の対象とさせていただきました。」などと説明して協力を得ます。
また、世帯主の配偶者などが、この地区が同和地区とは知らずに生活しているなどの家庭内の事情をあらかじめ承知した場合には、世帯主のみに面接調査を行うようにするなど配慮が必要です。

このことから、知らないうちに自分の家が「同和関係世帯」として世帯主名簿に載せられているというケースがあることが伺えます。「○○○○○」の部分は、地区概況調査で地区の事情を知る隣保館などが名簿を作って市町村の同和対策課がとりまとめる、というのがおおよその手順です。この地区概況調査については取材続行中ですので、またの機会に採り上げます。
さて、同和地区実態把握等調査では世帯全体(世帯票)と、さらにその世帯に住む各住民(世帯員票)に対する調査項目があるわけですが、世帯員票には住民のプライバシーに深く関わる調査項目があります。それが、配偶者が同和地区出身がそうでないのかを尋ねる項目です。これは地区外との通婚が進んでいるかどうかを調べるためのもので、この種の調査は同対法が生きていたころには国レベルでも行われていました。しかし、事実上配偶者の出自暴きをすることになるためもはや行われておらず、今でも行っている地域は非常に珍しいのではないかと思います。
調査では配偶者が「この地区」か「他の同和地区か」か「同和地区外」での生まれかどうかを聞かれます。「他の同和地区」というのは、旧地対特措法の対象地域であれば鳥取県外も含まれます。県外から嫁いで来た人にまで身元調査をする是非について鳥取県に問い合わせてみましたが「通婚率を調査する必要があるので、やむおえない」ということでした。
この全国的にも非常に珍しい調査結果ですが、平成17年7月1日現在、鳥取県内の同和地区では夫婦とも同和地区の生まれのカップルは60.9%、一方が同和地区の生まれのカップルは30.8%となっています。25歳未満の最も若い世代ではそれぞれ9.3%、83.9%となっており、最近では8割以上は地区内と地区外の結婚です。
(次回につづく)

同和地区実態把握等調査とは(2)

同和地区実態把握等調査は、県が市町村に委託して行われます。対象となる世帯は市町村長が作成した「同和関係世帯主名簿」に記載された世帯です。つまり誰が同和関係者であるかを明確にしたリストが存在するということです。もちろん、同和関係者や同和地区の存在の根拠となる法律はありません。2002年に3月に失効した旧地対財特法の対象地域を拠り所にしているのが実情です。しかし、法律的な根拠とは無関係に「歴史的な事実」を拠り所にこれからも行政上の同和地区や同和関係者は存在し続けるでしょう。もっとも県ではなく市町村レベルでは、条例によって部落差別の存在や実態調査の必要性を規定しているところもあります。
それでは、調査の手順を順に追っていきましょう。
まず、「調査員」と「協力員」が市町村長によって推薦されます。調査票への記入など、実際の調査業務を行うのが調査員で、これは必ず市町村職員が務めます。協力員は調査員の補佐・案内役で、民間人が務めることができます。
調査が始まる前に、市町村で調査員と協力員に対する説明会が行われます。説明会では具体的な調査手順の指示のほか、守秘義務の徹底や情報管理、事故防止について指導が行われます。
調査員や協力員には手引書や調査票、受け持ち世帯リスト、筆記用具などの物品が支給され、いよいよ調査がはじまります。調査員は多くの場合、市町村の同和対策課や隣保館、人権文化センターの職員が務めるわけですが、必ずしも調査対象地域に馴染みがあるわけではありません。一般採用の職員であればなおさらのことです。国勢調査に比べれば、かなり突っ込んだ調査項目もあるので、いきなり訪問しても協力してもらえるとは限りません。そこで、事前に各世帯に調査の趣旨などを記載した依頼状を配布します。この事前協力依頼は協力員の仕事です。協力員は町内会長、区長、部落長などの地元精通者が務めます。実際に調査が行われる前に、近所の顔なじみのおじさんが「こういう調査をやりますので、ひとつよろしくお願いします」という感じで依頼状を持って各世帯を回ることになります。
調査員が対象世帯を訪問する前に、まず家の前の道路の幅を見ます。これも重要な調査項目であるからです。世帯訪問は大抵昼間に行われるので、その家のお年寄りや主婦が出てきます。調査員証を見せて身分を明らかにした後、「先日ご案内した通り、調査に伺いました~」という感じで面接調査をはじめます。ここで協力を得られ、無事に調査票を埋めることができたら、お礼を言って謝礼品(タオル)を渡して世帯訪問は終わりです。
もしも住人が「そういう調査には協力できん」と言ってきたら、後日協力員と共に訪れて「粘り強く」説得し、それでも追い返された場合は調査拒否として処理することになります。あるいは、その前に調査員は協力員からある程度対象世帯の状況を把握しておきます。例えば「あん家(ね)は奥さんや娘さんにはここが被差別部落だっちゅうことは言っとらんだけぇ、旦那さんに直接聞かないけん」だとか「あそこは共産党だけぇ、なんぼ言ったって駄目だわいや」といった具合です。
(次回につづく)

同和地区実態把握等調査とは(1)

今年の4月11日、毎日新聞に次の記事が載りました。

県人権調査:「調査自体、人権問題の恐れ」施策審が反対意見書採択、白紙に /和歌山
県が今年度、国の旧同和対策事業対象地域など三つの調査区に分けて実施予定の人権課題現況調査に対し、県人権施策推進審議会(会長=月山桂弁護士)が「調査自体が人権問題だと指摘追及される恐れがある」として、反対の意見書を採択していたことが分かった。県は当初予算に調査費を計上しているが、意見書を受け、実施するかどうかは白紙になっている。
県によると、調査は県の同和対策への取り組みの成果を把握し、今後の施策の検討に必要な基礎資料を得ようと実施。旧同和対策事業対象地域▽旧対象地域周辺▽それ以外--に調査区を分け、選んだ調査区に居住する全世帯を対象に行う。対象数は350地区の約1万世帯。内容は世帯構成や収入、居住環境、就労状況、人権侵害の有無などで、調査員が6月に各世帯を訪れ、調査票を配布する予定だった。
(以下略)

「調査自体が人権問題」というのはかなり衝撃的なことですが、その理由として、和歌山県の県人権施策推進審議会は「かつての(同和対策事業)対象地域を再認識させ、ここが地区であったと一般の意識に呼び戻すおそれがある」としています。
一方、我が鳥取県ではこの種の調査は当たり前のように行われています。最近では去年の7月に行われ、その結果は鳥取県のホームページで公開されています。和歌山県が実施しようとした調査と異なるのは、行政上の同和関係住民だけを対象として行われることです。そのため、同和関係住民以外は調査の存在自体知らない人が多いと思います。
鳥取県より実施要綱・調査要領さらに調査員用の手引書の提供を受けたので、それに加えて県内関係者からの情報をもとに、どのように調査が行われているのか、何回かに渡って解説していきます。実施要綱・調査要領はPDF化したものを以下にアップロードしましたので、ご覧下さい。

(次回につづく)

鳥取市の隣保館職員の同和枠

鳥取市の職員採用には同和枠が存在するということは、半ば公然と囁かれています。もちろん、募集要項のような同和枠が存在することをはっきりと示すような証拠があるわけではありません。にもかかわらず、とある市内在住者は同和枠が存在していることは間違いない事実だと語ります。市の職員には通常の採用試験とは明らかに別枠で、しかも無試験で採用されている者がおり、それが同和枠であるということでした。
「なぜ同和枠が存在すると分かるのか?」という私の質問に対し、次のことが証拠が挙げられました。

  1. 役所では民間企業の入社式に相当する入庁式が行われるが、その際、1次試験でも2次試験でも見かけなかった人物がなぜかいる。
  2. そのような人物に限って、初年度から同和対策課や隣保館に配属され、本庁舎の他の部署で勤務することはない。
  3. 隣保館勤務者に限って、なぜかそういった採用と勤務状況である。

ご存知の通り、隣保館は市町村の同和対策課の管轄課にある同和行政の拠点施設です。鳥取市の場合、隣保館の職員はれっきとした市職員の身分を持つこととなります。市内では「隣保館の職員は被差別部落の人しかなれない」といった噂がまことしやかに囁かれています(もちろん、実際はそういうわけではないのですが)。しかし、正確には単に同和地区住民のための採用枠というよりは前回の民間企業の例でも触れたように、部落解放同盟の要請や推薦による「解放同盟枠」といった性格が強いと言われます。
同和枠の存在について、鳥取市に問い合わせてみました。

私) 隣保館職員について同和地区出身者を優先して採用するであるとか、運動団体からの要請で採用するといったことは現在も行われているのでしょうか?
鳥取市) 全市的にやっているということではないのですけども、合併前の旧鳥取市に関してはそういった経緯で採用したことはあります。
私) 鹿野や河原(支所)のような旧郡部については?
鳥取市) それぞれの地域についてまでは完全には把握してはいない部分もあるのですが、普通に一般職として採用した職員が人事異動で隣保館に行っている地域もあります。また、同じ方が何年もかなりの間お勤めの場合は、ある程度勤務先を指定した上で採用することもあるみたいです。
私) 現在でも制度としてそういったものは残っているのでしょうか?
鳥取市) 制度ということではないのですが、欠員が出た場合に、同じ隣保館に正職員を配置するか検討することになるのですが、その上で職員を1名採用するとした時に一般公募の正職員を当てるのか、あるいは隣保館限定で募集するという事を検討することになります。
私) 普通なら採用試験があり、面接があって採用ということになると思うのですが、それとは別の形態での採用があるということでしょうか。
鳥取市) 我々としても今のこういう時代なので一般採用した職員を普通に配属してやっていければと思っておりますけども、過去に、同和対策の制度があった時代に地区の推薦等を受けて採用したといったことがあるので、一般採用した職員を我々が配置すると言ったときに、要望なりが出てくる可能性はあります。その時、どのような判断をするかといったことだと思います。今、決めていない部分もあります。
私) それは、制度として明文化されているわけではない、ということでしょうか。
鳥取市) ない、ということです。
私) 可能性として、現在でも(同和枠は)あり得るということでしょうか。
鳥取市) 全く0とは言えないですね。定年退職者が出た場合、私どもの方は一般職から採用すると言う考え方で説明しなければならないのですが、相手方の各地区の要望をまとめた上で、最終的にやめるという決定をするのか、以前のようなことを次の採用時にもやるかどうかといったことは判断ができかねるところがあります。
私) これは隣保館職員に限ったことで、他の職種ではないのでしょうか。
鳥取市) 今はもう、ないですね。隣保館で過去そういうことがあって、たまたま退職者が出てない関係でグレーゾーンになっているということです。

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鳥取三洋電機に存在した同和枠

県内でその存在がまことしやかに囁かれる民間企業への同和枠なのですが、なかなか噂の出所についてははっきりしません。しかし、同和枠の存在について、その噂の出所を具体的にご存知の方がいらっしゃいました。
証言によれば、同和枠の存在ははっきりと明文化されているわけではないが、関係者の間でそのことがあまりにも知られすぎているために、企業や役所向けの同和研修などで解放同盟の講師が話すことがある、ということでした。具体的には、講師が鳥取三洋電機の同和枠に触れ「子弟の採用まで要求してしまうのはやり過ぎじゃないか?という声が内部から一部出たこともあったがこれを勝ち取った。」という内容を講師が話していたということです。
私は、この企業に取材を試みました。

私: 同和地区住民のための採用枠であるとか、解放同盟の推薦によって職員を採用するということは実態としてあるのでしょうか?
企業担当者: 基本的にはありません。成績能力を優先にかんがえておりますので、そういったことはございません。
私: 以前そのようなことがあったと市内の方から聞いたのですが。
企業担当者: 以前は…若干あったように私も聞いております。例えば10人採用するとして20人応募があったとして、その10番目に同じ成績の方がおられた場合、優先的に(同和地区の方を)雇用したということは過去にあったように聞いております。
私: いつごろのことでしょうか?
企業担当者: 部落地名総鑑事件の直後といいますか…10年近く前のことになりますね。
私: 現在は、そういったことは、はっきりと止めていらっしゃる?
企業担当者: もう今は分かりませんし、そういうお話もありません。以前は運動団体(部落解放同盟)の方からそういったお話があったようですけども、今は公正採用ということで身元調べとか一切できませんからね。(誰が同和地区出身か)分かりませんから、できないんですね。

ところで、部落地名総鑑事件は1970年代半ばで、この企業が地名総鑑を購入したことが発覚したのもその頃です。ということは、30年ほど前ということになり、10年近く前という話はつじつまが合いません。今から10年前の1996年と言えば、鳥取県人権尊重の社会づくり条例が制定された年です。その少し前の1994~1995年頃に、採用選考で差別があったなどとして中国電力をはじめとする県内企業が相次いで部落解放同盟から糾弾されています。おそらく、この頃のことを指しているものと思われます。
少なくとも、そう遠くない過去、県内の民間企業に「同和枠」が存在したことは間違いありません。とは言え、社員の能力が利益に直結する民間企業においては、さすがに実質無試験でフリーパスというものではなかったようです。
(次回に続く…)

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