訴状

ということで、以下の訴状を鳥取地裁に提出してみました。

平成19年11月16日

鳥取地方裁判所 御中

〒680-8570 鳥取市東町1丁目220
被告         鳥取県
上記代表者知事         平井伸治
処分行政庁         鳥取県知事
         平井伸治

(甲事件)公文書不開示処分取消請求事件
(乙事件)公文書開示義務付け請求事件
訴訟物の価額       160万円
貼用印紙額        1万3000円
予納郵便切手       6120円
第1 請求の趣旨
(甲事件)
1 被告は原告宮部慎太郎に対し、平成18年11月29日付けで行った、公文書部分開示決定(第200600119607号)処分のうち「部落解放鳥取県企業連合会による加点研修の実績報告書、受講者名簿」に関する部分を取り消す。
2 被告は原告宮部慎太郎に対し、平成19年5月30日付けで行った、公文書部分開示決定を求める異議申し立ての棄却決定(第200700029687号)処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(乙事件)
1 被告は原告に対し、「部落解放鳥取県企業連合会による加点研修の実績報告書、受講者名簿」の全ての内容を開示する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。

第2 請求の原因
(甲事件)
1 当事者等
(1) 原告宮部龍彦(以下「原告龍彦」という。)は鳥取県内の人権問題を扱うウェブサイトの運営者であり、請求の趣旨記載の行政文書(以下「本件文書」という。)の公文書開示申出を行った。
(2) 原告宮部慎太郎(以下「原告慎太郎」という。)は原告龍彦の兄で、肩書地に居住する住民であり、原告龍彦の依頼により本件文書の公文書開示請求および異議申し立てを行った。
(3) 被告は、鳥取県情報公開条例(平成12年鳥取県条例第2号、以下「条例」という。)第2条第1項の実施機関である。
2 本件に至る経緯の概要
(1) 原告龍彦は平成18年3月24日、被告(当時の知事は片山善博)に対して条例第16条に基づき本件文書の公文書開示申出を行った(甲1の1)。
(2) 被告は平成18年4月27日付の公文書部分開示回答書をもって本件文書を部分開示したが、法人不利益情報として受講者の氏名、役職、合否、所属、講師の氏名、所属等(一部)を開示しなかった。
(3) 原告慎太郎は平成18年10月24日、被告に対して条例第6条第1項に基づき本件文書の公文書開示請求を行った(甲1の2)。
(4) 被告は平成18年11月29日付けの公文書部分開示決定通知書をもって部分開示処分(以下「甲処分」という)をなしたが、条例第9条第2項第2号に該当するためとして、受講者の氏名、役職、合否、所属、講師の氏名、所属等(一部)を不開示とした。また条例第9条第2項第3号アに該当するためとして、受講者の所属を不開示とした(甲2、甲3)。
(5) 原告らはこの時点で平成18年12月12日に業者名が特定されると同和地区の業者かどうかということが分かるので、企業連の加点研修に関する加点情報は閲覧室に掲示されていないということを東部総合事務所県土整備局建設業係長に電話で聞いて知っていた知った。そのため、不開示となった「受講者の所属」を開示するか、あるいは同和地区出身者の情報を含むのであれば鳥取県個人情報保護条例第7条第2項第2号に違反する文書であるため本件文書を破棄すべきであるという趣旨で、行政不服審査法第45条に基づき平成19年1月16日付けで被告に対し異議申し立てをした(甲4)。
(6) これ受け鳥取県情報公開審議会は平成19年5月7日付けで公文書部分開示決定処分を妥当とする旨の答申をした(甲5)。
(7) 被告は平成19年5月30日付け(平成19年6月2日到達)の決定書をもって、異議申し立てを棄却(以下「乙処分」という)した(甲6)。
(8) 上記決定書には、本件文書に記載されている所属企業名が条例第9条第2項第2号に該当し、条例第9条第2項第3号に該当することを否定できない旨が棄却理由として記載されていた。
3 甲処分の違法性について
甲処分は違法になされたもので無効である。その理由は以下の通りである。
(1) 条例第9条第1項および条例第9条第2項第2号により開示義務がある
 鳥取県情報公開審議会において「事業者団体以外の団体が実施した加点研修の受講者名簿について開示請求があった場合、開示・非開示の判断はどうなるのか。」という委員の質問に対し、鳥取県総務部県民室は「個人情報ではあるが、(条例第9条第2項第2号エの)規則で定めるものに該当するので開示することになる。」と答えている(甲7の1の2頁の下から23行目)。
 この発言のとおり、鳥取県情報公開条例施行規則第5条第2項第3号で本件文書のような業務の遂行実績に関する情報が、条例第9条第2項第2号で開示しないとされている個人に関する情報から除外する旨が定められており、企業連に関する情報を特別に除外すると解釈されるような規定はない。従って被告は条例第9条第1項および条例第9条第2項第2号により開示義務があることを知りながら、違法に甲処分をなした。
(2) 条例第9条第2項第3号の非該当性
 公にすることにより害されるとされる「当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益」の内容が具体的に何を指すのか不明であり、法人の利益が害されるおそれがあるという事実がないため、受講者の所属は条例第9条第2項第3号に該当しない。
(3) 日本国憲法第14条の法の下の平等に反する
 被告がなした甲処分は、何ら合理的な理由なく企業連と他の事業者団体を差別するものであり、法の下の平等に反する。
4 乙処分の違法性について
被告が掲げる非開示の事由は、本件文書の受講者の所属には当てはまらない。その理由は以下の通りである。
(1) 条例第9条第2項第2号の事由「個人に関する情報」の非該当性
 乙処分の理由に「法人登記簿等他の情報と組み合わせることにより少なくとも当該企業の役員、職員が特定されうる情報である」とあるが、これが認められるのであれば法人名は全て個人に関する情報ということになってしまい、条例第9条第2項第2号にある個人に関する情報を拡大解釈しすぎである。異議申し立てにより原告が公開を求めたのは当該研修の参加者の所属企業の名称(法人名)であって、当該法人の役員等は本件文書とは無関係である。
 乙処分の理由に「当該企業連合会の役員等は必ずしも同和地区出身者であるとは言えないものの、ある程度のそのように推定されてしまう」とあるが、部落解放鳥取県企業連合会(以下「企業連」という)の役員が同和地区出身者であるかどうかということと、本件文書の参加者や企業の役員が同和地区出身者であるかどうかということは無関係である。また、仮に研修の参加者やその所属企業の役員、あるいは企業連会員企業の役員のことを指すのだとしても、根拠がない。なぜなら、企業連に所属する企業だけが当該加点研修を受講できると定めた条例、規則等は存在せず、同様に当該加点研修が同和地区出身者のためであることを定めた条例、規則等も存在しない。また、当該文書について、鳥取県管理課は「県民の声」で「当該情報の取得は、鳥取県個人情報保護条例第7条第2項第2号及び同施行規則第5条第4項で禁止されている同和地区の出身であることに関する情報(同和地区出身である事実の有無に関する情報)の取得には該当せず、同条例に抵触するものではありません。」としているため、鳥取県個人情報保護条例施行規則第5条第4号にある「同和地区の出身であることに関する情報」ではなく、同和地区出身者とは無関係である(甲10)。また、企業連が「部落解放同盟の関連組織」であることと、企業連の役員等が同和地区出身者と推定されることがどう関係あるのか不明である。
(2) 条例第9条第2項第3号の事由の非該当性
 原告は異議申し立ての際に、仮に企業連が同和地区と関係のある企業で構成されていたとしても、部落差別により条例第9条第2項第3号に該当する、当該法人の利益が侵害される具体的な事例は存在しないと主張した。それを受けて鳥取県情報公開審議会が行った調査では原告の主張通り一切そのような事例を見出せなかった(甲9、甲7の1の4頁の下から8行目、甲7の2)。
 また、鳥取県人権局が把握している平成17年度の差別事象の一覧(甲13)では差別行為により、具体的に誰かが不利益を受けたといった事例は1件もなく、加害者や加害者の意図が不明なため、本当に差別事象と言えるのか疑わしいものばかりである。また、部落差別により企業が不利益を受けるおそれがあるのなら、それにつながるような事例が一件でもあるはずである。
 甲第6号証にある「部落差別の意識が解消されているとは言えない」という理由は調査の後になって鳥取県情報公開審議会の議論の中で出されたものである。「部落差別の意識」という言葉の意味が不明瞭であり、意識が行為に結びつく根拠となる事例が何もない以上、当該法人の利益が侵害されるという実社会上の出来事とは無関係である。
 乙処分の理由である「企業の権利利益が侵害される事象が潜在化する傾向があること」には根拠がない。潜在化するということは「存在する事象が表面に現れなくなる」という意味であって、そもそも事象が存在することが立証されなかった以上、潜在化するとは言えない。
(3) 部落差別の意識について
 「部落差別の意識が解消されているとは言えない」という鳥取県の見解の根拠となっている県が実施した人権意識調査(甲8)は、部落差別の現状について同和地区の人々に対する差別の意識は改善されているかどうかを質問したものである。結果は「どれだけの人が部落差別の意識が解消されていないと思っているか」ということを反映したものであって、「どれだけの人が部落差別の意識を持っているか」ということを反映したものではない。
 また、部落差別の意識が何を指すのか非常に曖昧なため、現実の差別行為に結びつくとは到底考えられないようなことまで差別の意識とされている可能性がある。例えば鳥取市では、「同和問題に無関心でいたり、自分には関係ないから避けて通ればよいという考え方自体がすでに差別をしている事だ」といったことが公的な啓発の場で教えられてきた実態があり(甲11の1)、そういったものまで差別や差別の意識とされていることは十分に考えられる。中には「「もう差別はない」といった考えは、差別を助長するものです」といった、現に差別が存在しなかったとしても、差別が存在しないことを示すこと自体が差別となってしまうような矛盾したものまである(甲11の2)。
 これは鳥取市に限ったことではなく、鳥取県内全体で見られるものと思われる。なぜなら、鳥取市のような啓発が、鳥取県教育委員会の方針に基づいて学校教育・社会教育として行われているものだからである。鳥取県人権教育基本方針(甲12の18頁の3)には人権侵害の実態について述べられているが、「無関心層や無関心をよそおう態度」が問題であるかのような記述がなされ、「差別意識は根強く存在しており、部落差別はいまだ解消されていません」という記述がなされており、その詳細についての説明は「差別が内在」だとか「差別につながる」であるといった曖昧なものばかりである。しかし教育現場では、この方針を根拠として、何ら客観的・批判的な検証が行われることなく、差別があるという前提で教育が行われるのである。
 また、「社会的立場の自覚を深める取組」(甲12の17頁の下から15行目)は、原告らの出身地(原告慎太郎の住所地)を含む一部の地域では「立場宣言」と称して同和地区の児童生徒に半ば強制的に、自らが同和地区出身者であることを他の児童生徒の前で話させることが行われ、差別とは別の意味での同和地区に対する忌避意識を深めることとなった。
 以上の理由から、県が実施した人権意識調査は信頼するに値しないものである。
(4) 日本国憲法第14条で禁止された門地による差別である
 (2)、(3)に示した通り、本件文書にある受講者の所属企業の正当な利益が侵害されるおそれがあるという根拠がない。そのことを被告自身が鳥取県情報公開審議会の調査により証明しておきながらそれを無視した。また、同和地区出身者の地位を定めた法令は既に存在しない。その上で、被告が企業連関係者を同和地区出身者と推定し、乙処分をなしたことは、公共工事の入札に関する情報を開示するか否かを利害関係者の門地によってのみ判断することであり、日本国憲法第14条に違反する差別である。
(乙事件)
1 当事者等及び本件に至る経緯の概要
甲事件に同じ
2 本件文書の開示を義務付ける理由
甲事件のとおり、甲処分により本件文書の内容の一部を開示しないことは、条例第9条第2項第2号および条例第9条第2項第3号に照らして根拠がない。ゆえに、甲処分は本件文書の開示を義務付けた条例第9条第1項に反し、被告の裁量権の範囲を超えるものである。従って、行政事件訴訟法第35条の3第5項に基づき行政事件訴訟法第37条の3第5項に基づき、本件文書を開示することを求める。
証拠方法        
1 甲第1の1号証 公文書開示申出書
2 甲第1の2号証 公文書開示請求書
3 甲第2号証 公文書部分開示決定書
4 甲第3号証 部分開示された本件文書(抜粋)
5 甲第4号証 異議申立書
6 甲第5号証 鳥取県情報公開審議会答申
7 甲第6号証 決定書
8 甲第7の1号証 平成18年度第4回鳥取県情報公開審議会会議録
9 甲第7の2号証 平成19年度第1回鳥取県情報公開審議会会議録
10 甲第8号証 鳥取県人権意識調査報告書 平成17年12月(抜粋)
11 甲第9号証 不服申立人意見書
12 甲第10号証 県民の声(抜粋)
13 甲第11の1号証 とっとり市報 平成14年3月1日号(抜粋)
14 甲第11の2号証 とっとり市報 平成13年8月1日号(抜粋)
15 甲第12号証 鳥取県人権教育基本方針 平成16年11月(抜粋)
16 甲第13号証 平成17年度県内の同和問題等に係る差別事象

[H19.11.28] 「第1 請求の趣旨」の原告を訂正。「第2 請求の原因」の2(5)を一部訂正。
[H19.1.29] 「第2 請求の原因」(乙事件)の2を一部訂正。

コメント

コメント(5)

  1. 鳥取県民 on

    とうとう「訴状を鳥取地裁に提出」というところまで来てしまったのですね。確かに県行政は県民全体に責任を持ち、貴重な税金を適正に執行する義務があります。ですから不透明性は極力排除しなければならないとは思います。今まで同和行政が秘密裏に行われていたとすれば問題です。しかし私は、部落差別は厳然と存在しており、行政の積極的な手だてが必要だと考える一人です。今後は県民全体に対し、同和行政の必要性と実施している研修や今回特に問題視しておられる加点制度等について県民の理解が得られるよう公開していった方がよいのかもしれません。しかしそうなると、同和地区や同和地区出身が明らかになる場合もあるわけで・・。県はとても困難な課題に直面することになりそうです。県行政が率直に実態を公開し、県民が納得する状況が来た時が、もしかしたら部落差別が解消された時期なのかもしれません。難しい問題です・・・。

  2. 鳥取ループ on

    私がここまでした理由は2つあって、
    ・県が部落差別の事例を1つも出せなかったこと
    ・県と企業連が今年の交渉の内容を出さなかったこと
    です。
    本当に部落差別の事例がないのなら、
    企業連の会員名が公開されても、
    誰の不利益にもならないはずです。
    仮に差別が厳然とあるのに県が1つも事例を把握していないなら、
    部落問題解消のために支出されている
    何千万円という予算はいったい何なのか、
    ということになります。
    それから、おそらくは各企業から支払われる
    会費で運営されている企業連を入札で優遇し
    情報も一切出さないということが
    部落問題を解決することとどう関係あるのか
    私には理解ができません。
    こういったことがまかり通れば
    同和地区や住民が分かってしまうと言えば
    どんなものでも隠し通せる
    という事例を作ることになるので、提訴することにしました。
    そもそも昭和40年代に壬申戸籍を封印しておきながら、
    今だにそんなものがあることがおかしいのです。

  3. なめ猫♪ on

    鳥取で部落解放企業連文書の不開示判断取り消し求め提訴

     ご存知鳥取ループさんが情報公開請求した内容が非開示であったことに、処分取り消しを求めて鳥取地方裁判所に提訴されました。
     福岡県では情報公開審査会がこれまで秘密に行…

  4. 名無しさん on

    昔は慎太郎さんも同和訴訟に参加していたんだね。

    今はもうやめたのは何か理由があるの?

    • 鳥取ループ on

      やめてないですよ。まだ広島高裁松江支部で訴訟が進行中です。