同和地区出身児童のカミングアウト

※昔書いたメモを元に構成しています。鳥取では、旧同和地区に限らず、部落という言葉を集落という意味で普通に使うということに注意して読んでください。
小学5年生のある日の朝、5時間目の道徳の時間は、道徳の特別授業をするということを担任教師が言った。とても大事な話だというので、何なのだろうと、私は少し期待していた。
休憩時間、クラスの友達の間でいろいろとうわさが流れた。今日の授業というのは、「部落差別」についてのことらしい。私は部落差別という言葉は4年生のときに習ったことがあるので、少しは知っていた。しかし、噂では、今回の授業は身近にある部落のことらしい。そして、A部落とB部落がその部落だということを、ちらっと友達から聞いた。それを知った私は、早速仲のよかったA部落の友達に何の事か聞いてみた。すると、なにやら深刻な顔をして、「学習会」と関係があることを言っただけで、それ以上詳しくは教えてくれなかった。
B部落について私はよく知らなかったが、A部落の友達がよく、「今日は学習会があるから遊べない」とか、「あー今日学習会かぁ、たいぎい(面倒くさい)なぁ」と言っているのをよく耳にしていた。学習会って言うくらいだから、学習塾みたいなものだと私は思っていた。でも、A部落以外の友達で学習会に入っている人はいなかった。学習会のお陰かは知らないけど、A部落の友達は難しい言葉をよく知っていた。
結局、私には「部落差別」も「学習会」も何のこと、授業が始まるまで分からずじまいだった。
昼休憩のとき、A部落とB部落の友達がいつのまにかいなくなっていた。そして、授業開始の時間が来ると、担任教師が入ってきた。なにやら厳しい顔をしていた。続いて、A部落とB部落の友達が並んで入ってきた。みんな、手に模造紙を持っている。続いて、担任教師が日直に合図して、いつも通りの授業開始の起立、礼をした。
そして、担任教師は穏やかな声で話し始めた。それは次のような内容だった。
「みんなは、去年、部落差別というのを勉強したと思います。実は、この近くにも、そのような、差別されている部落があります。もう知っている人もいるかもしれませんが、(小さな声で)A部落とB部落です。みんなは、このA部落とB部落の友達が、学習会というのを度々行っているのを知っていると思います。この学習会では、この部落差別について勉強してきました。今日は、その勉強してきた成果を発表してもらおうと思います。」
A部落と、B部落の友達が学習会をしていたのは「部落差別」について勉強するためだったということをこの時知った。ただ、それを秘密にしていたことが腑に落ちなかった。
「部落」の友達が前にずらりと並んだ。もちろんさっき休憩時間に話した友達もいる。みんな緊張している様子だった。
「これから、部落差別についての発表をします。」
1人が高い声で言った。先生が拍手したので、私も拍手した。そして、もう一人が模造紙を広げた。
「これは、各部落の間での結婚の数です。細い線は1組から3組、太い線は3組以上です。部落内での結婚が多い部落は、赤線で囲ってあります。」
私はその図を見て驚いた。A部落とB部落は赤々と囲ってあり、A部落とB部落の間には太い線が引いてある。それ以外の部落は細い線や太い線で網の目のように結び付いているが、二つの部落だけ孤立していて、A部落から一本だけ細い線が他の部落に伸びているだけだ。
発表は続けられた。
「このように、A部落とB部落は孤立していて、明らかに結婚差別があることが分かります。また・・・。」
そして、担任教師が補足して説明した。
「これから分かるように、身近にも結婚する上で差別があることが分かります。実際に、部落の人だという理由で結婚を断わられて、とうとう自殺した人もいます。」
私はショックを覚えた。それは部落の友達をかわいそうに思ったからではなく、何よりも私は、自分の部落の大人達が、差別者だったと知って驚いた。
「これは、被差別部落内と被差別部落外での高校進学率の変化です。このように、30年ほど前では、かなりの差がありましたが、今はほとんど同じになっています。しかし、被差別部落内の方が少し低くなっています。」
高校進学率のグラフが出た。これは、だいぶよくなってきていたので、私は少し安心した。
この後も、発表は続いたが、難しくて(というよりは、発表する友達の声が小さくて)私には分からなかった。
「これで、発表を終わります。」
と、部落の友達は礼をした。ここまで、時間にして30分程度だった。
発表が終わると、静かになった。すすりなく女の子もいた。
そして、担任教師はこう言った。
「はい、このように、あなた達の身近にも、部落差別というものはあります。今日勉強したことは、とても大事なことですから、家の人とも話しあってみて下さい。もしかしたら、おじいさんとか、おばあさんとか、よく知っとんさると思います。もし、おじいさんやおばあさんが差別するような事を言ったら。『おじいさん、そんなことはいけんで。』『おばあさん、それは間違っとるで。』と、勇気を出して言って下さい。それから、今日聞いたことは、下級生とかには、言わないで下さい。」
担任教師は続けた。
「それでは、今日のことについて、それぞれ感想を言ってみてください。」
みんな黙った。私も黙った。いきなり感想と言われても、なかなか思いつかない。だいいち、言い出す勇気がない。
しかし、しばらくすると一人の女子が立ち上がった。
「なぜ、こんな差別があるのか不思議でした。ひどいと思います。」
こんな時、女の子は積極的だ。それから、次々と手を上げてみんなが感想を言
い始めた。
「かわいそうだとおもいました。」
ある男子の発言だった。しかし、担任教師はこう言った、
「かわいそう、それはちょっと違いますね。悪いのは差別する人なんですから。」
さっきの男子は黙って座った。
「差別をする人が許せないと思いました。」
ある女子の発言である。
「そうですね、許せませんね。」
教師が言った。後々、みんなの発言は、この「差別者は許せない」というのが殆どだった。そして、私の番が来た。
「今までも、A部落に行っても、別に何も思わなかったのに、差別する人は変だと思いました。」
とりあえず、それがその時の私の感想だった。
そして結末。
「これで、もう差別はなくなってくれると信じてます。」
そう言って担任教師は泣いた。女子の殆ど全員と、A部落やB部落の友達が泣いていた。私は涙もろい性格だと思っていたが、この時は全く涙が出なかった。内心「ドラマみたいだすごい!」と思っていた。


このようなカミングアウトは「部落民宣言」と呼ばれます(同和利権の真相4より)。
追記2006年2月5日
鳥取県の教育関係者の間では「立場宣言」あるいは「立場の自覚」という用語が一般的です。
この件について、鳥取県教育委員会人権推進課に問い合わせたところ、担当者の方から「今でも行っている学校はあるし、自分も現場を見たことがあるので知っている。」という回答が得られています(2005年10月)。
さらに詳しく話を聞くと、これについては問題があるという指摘があって、やめた学校もある。また、県として行っている事ではなく、地区学習会で保護者などが主体となってやっているものであり、カミングアウトを強制しているわけではない。地区学習会は県ではなく、市町村の管轄である、ということでした。
さて、この「地区学習会」とは何なのか?
これはまた別のページでお話します。
この部落民宣言は主に東部の学校で行われているようで、西部の方からは、こんなことは絶対にありえないという証言が得られています。
追記2005年11月6日
当時のメモが出てきたので、それを元に書き直しました。こちらの方がより正確だと思います。

コメント

コメント(5)

  1. なめ猫♪ on

    鳥取人権条例可決―全国への波及を阻止せよ

    昨日、全国初の人権擁護条例が鳥取県議会で可決しました。鳥取県弁護士会も山陰中央新報も反対するなかで、片山県知事は無責任な発言に終始しました。テレビや新聞でも大きく取り上げられています。朝

  2. tarako on

    鳥取市の中学校在学中2年の終わりごろだったかな?
    その中学校の校区にはいわゆる被差別部落が数地区含まれていて、学校として同和教育には時間を割いていました。
    ある日突然、教壇にならぶ面々、僕たちは・・・とカミングアウトが始まり、しまいに感極まって泣き出すものもでる始末。
    そのうちのひとり、成績はトップクラス、某人気運動部の主将かなんかで、割りとイケメンで女子にモテモテの生徒会長。といったやつがなきながら訴える。埋めて余りあるいい人生だと思うがな。
    内心おもったね「いままで、誰が、お前を差別したよ(怒)」

  3. 鳥取ループ on

    コメントありがとうございます。
    やっぱり鳥取市ですか。
    県教委によれば、今はやっていないというのが建前ですが、鳥取市の同和地区を抱える学校では、ぶっちゃけ今でもやってます。最近知ったのですが、鳥取県では「部落民宣言」ではなく「立場宣言」という用語を使うそうですね。

  4. 山下静男 on

    同和とか部落とか全然知らない人が多い
     差別なんか有るなんてない~
    差別利用している、奈良市の問題がいい
    例だ!

  5. 匿名 on

    私は西部の出身者ですが、小学校の時に被差別部落出身の生徒のカミングアウト&発表会がありました。

    もう20年近く前の話ですが。

    仲の良かった友達もその中にいたので、当時はこんなこと学校で教えられなかったら知らないのになぁ~と不思議に思った事を覚えています。