[読み物]学校における差別事象に係る鳥取県教育委員会の見解について(2/5)

前回からのつづきです。

2 児童・生徒の置かれている状況

事象を分析をしていく中で、生徒たちが学校やクラスにおいてお互いの存在を認め合うような人間関係が築けず、疎外感を感じ、心理的な支えや心の安定を失っている状況があった。その背景としては、さまざまなこと複合的に絡み合っているが、特に、①自尊感情の乏しさ②心の育ちの弱さの2点が浮かび上がってきた。

①自尊感情の乏しさ
ある学校では、相手の欠点を取り上げて中傷したり、笑いをさそったりするための「はげ」「ちび」「デブ」などの言葉が平素から見られていた。また、ある学校では、小学校のときからカツラを装着している友だちをからかいつづけている生徒がいた。自らの存在感を示すために友だちを動物にたとえ、友だちをさまざまに罵倒することで少しでも優越感を持ちたい、そして、仲間をおとしめることでしか自らの存在感を得られないと考えている生徒もいた。このことは、生徒が自分に自信がなくて(自尊感情が乏しく)不安だから、絶えず友だちの中での自分自身の序列が気になるのではなかろうか。努力をして友達に認められるのは大変だから、こういう安易で卑怯な手段に訴えている。
また、事象後の面接指導の中である生徒は、「(自分の在籍している)○○高校のトップは(別の)◇◇学校のドべか。」と聞き「何でそういうふうに人と比べる。」と教師がたずねると別の生徒が、「まあええ、(自分の在籍している)○○高より××高があるけえ。」と学校間で序列を作って、自分の置かれている状況を見つめていた。学歴社会という社会意識を引きずっていて、それを克服するものが育っていないために、自分の通う高校に誇りが持てず、自分自身にも自信を失っていた。今回の事象は、自尊感情をさまざまな場面で傷つけられ、自分自身に自信が持てないまま、無気力に日々過ごしている生徒が発した信号でもある。
このように、自尊感情が乏しい生徒たちは、自分自身に自信を持てず、周囲に対して疎外感を持ち、心理的な支えを失っているために、限られたグループの中でしか交友関係を深めることができない。そして、まじめに取り組む生徒をあざ笑い、これによって心を傷つけられた生徒たちは心を開かなくなっており、このことが学級としてのまとまりや仲間づくりに大きな影響を及ぼしている。
②心の育ちの弱さ
事象を起こした生徒の多くが、家族から甘やかされて育てられ、利己的だったり、自分勝手で私語が多かったりして、ものごとに真剣に取り組めないという指摘があった。
ある生徒は、実際に自分自身に同和地区出身の友人がいるにもかかわらず、アンケートに「一匹残らず」という記述をした。それを回収されて読まれることがわかっていながら、「冗談ですまされるだろう」と考えていた。相手の立場に立ってものを考えたり、行動したりすることが極めて不十分である。また、パソコンゲームの台詞を何の抵抗なく引用している。現実の世界とパソコンゲームの架空の世界を同じような世界として感じている。別の事象では、教師が昨日の出来事を子ども達に「百姓をしとってなあ。J「百姓は大変だ。」と言ったところ、生徒が「百姓・農民・えた。」と口走った。労助の意味や労働に対する正しい認識をもち労働の尊さを認識していれば、連想ゲーム的な発言にはならない。
心の育ちの弱さは、友だちづくりにも影響を及ぼしている。友だちが苦しんでいても痛みを感じないし、自分のことしか考えていない。近年、「子ども達が変わってきた。児童生徒に言葉が届かなくなった。」と教職員からよく聞くようになってきた。同和問題の学習をし、差別がいかに不合理なものであり、差別を受けた人がどんなに怒りを感じているか学習しても実感として受け止められず、たとえ級友に同和地区生徒がいても心の痛みに気づかない。このような子ども達は一見仲が良いように見えながら、実は全く希薄な人間関係しか作っていない。一人ひとりがカプセルに入った状態でつき合う。ふざけあいなど表面的な付き合いはするが、本当に相手の将来や相手のことを考えたつき合いとなっていない。このことが、生徒たちの人間関係づくりの弱さとなって表れている。

今後の取組としては、「わかる授業」の実践や日常的なふれあい、そして教育相談、家庭訪問を通した内面的な指導の充実が必要である。また、生徒が友だちをおとしめる事で自尊感情を満足させようとした原因は、中学校や高等学校だけの問題ではなく、小学校教育・幼児教育にも原因をたどることができる。自尊感情を培うための指導をすべての教育の場で行わなくてはならな
い。
また、生徒は、笑いをさそうために、仲間をおとしめており、彼らにとっては、それが、有効な人間関係をつくる手段だと信じていた。しかし、実際には、そのために、この生徒たちはクラスから浮いていた。生徒同士がお互いに思いをぷつけ合い、相互に高まっていくような、より良い人間関係をつくるための技能(スキル)を幼児教育から系統的に積み重ねていくことが必要で
ある。
そして、児童生徒たちの心の居場所のある学校・学級集団づくりが最も大切である。
(つづく)

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